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聞いた言葉・第23回目、ほんものの酒を!

ほんものの酒を!

 この言葉は、本の名前からです。私の30歳前後(1980年代中頃)は、ビールもウィスキーも、まあ何でも良く飲んでいました。そんな時期、けっこうお酒のいける先輩から、まず最初にこの言葉は聞きました。先輩が言うには、ある書評欄に書いてあったとし、「上野君よ、今の酒の作り方はニセモノや合成酒がおおいんやて。こんなん飲んでたら、体にも良くないと書いてあったでえ・・・」と話してくれました。

 「えっ、それはなんと言う本ですか、どこの出版社ですか」と聞き返していました。早速、書店に行き日本消費者連盟編著の『ほんものの酒を!』を手にしました。私は、本を読むのは遅いほうですがこの本は一気に読んだのを覚えています。そして、まず、今まで(日本の大手酒造メーカーに)騙されていたと思いました。

 (ここで断りを書きますが、これから書くことは全ての酒造メーカーや酒を対象にしている訳では、けっしてありません。また、今回私は、この本に取り上げてあったおおまかな内容を書いていますので、あえて酒造メーカー名やその銘柄は省いています。さらに、私は、酒はあくまでも嗜好品だと思っています。ですから、いくら私が、たとえ「このビールは一番うまい」と思っても、その味に合う人と合わない方も当然いらっしゃると思います。そのようなことから、私がこのページに色々書いたとしても、各々のメーカーや銘柄まで評価するつもりはありませんので、このことはご了承願います)
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 この本の全体を紹介をすると大変長文になりますので、私の感想として概略書きます。酒は元々、日本酒、ビール、ワイン、ウィスキー、焼酎、泡盛など、いずれもが大量生産は、不向きなものだと言うことでした。だからこそ、昔から古今東西、各地域ごとに酒造りがなされていたと言う歴史があります。また、そのおかげもあり、各地域ごとに本当に特色ある酒類も銘柄も多く存在していました。(あえて、過去形で書いています)

 それがなぜ、現代のようにな何十・何百万人分などの酒が一度に出来るようになってきたかと言うと、確かに機械、設備、販売網、輸送態勢などの大型化、近代化も寄与していると思います。しかし、大量生産を可能としたのは実は、酒作りのための原材料そのものを変えたからなのです。

 分りやすい例として、日本酒の場合、古代からの製法では、原材料は米、米麹(こうじ)と水の3原料のみでした。ビールも同じく、麦芽、ホップと水の3原料のみで作っていました。それが戦後間もなく、日本酒には3原料にプラスして醸造用アルコールと醸造用糖類が入れられました。ビールも、米とコーン・スターチが加えられました。

 念のため、(日本酒の醸造用糖類は、水あめやカラメルのことと書いてありました。また、ビール本来の作り方の例として、ドイツのビール純粋令(麦芽、ホップと水の3原材料のみで作らなければならない法律)が書いてありました。(この製法をこのページでは、これ以降、麦芽100%ビールと書きます)

 これら原材料の表記は珍しいことではなく、ちゃんと日本酒やビールの瓶に貼ってあるラベルに書いてあります。ちなみに、麦芽100%で作られたビールのラベルには、これ以外の原材料表示はありませんし、そうでないビールには堂々と、米とかコーンスターチなど表記がされています。

 なぜ、本来の製法になかったこれらの材料(副原料)が加えられたのか、(戦後混乱期の原料不足を除き)コストを抑えるなどとの理由はありましたが、結局のところもうけ優先がその根底にあるようです。原材料にこだわり、本来の原料で作っていたら、利益率下がる(もうけがない訳ではなく、大量生産による”大もうけ”が出来ないと言うこと)からなのです。

 ここ近年、食肉偽装、各種食物の産地ニセ表示事件や表示と中身が違う問題など、社会的問題に発展し、中にはその影響を受け有名会社が破綻した例もあります。私は、法律上は問題ない、さらには嗜好品だからと言って、副原料がたくさん入った酒を本来の製法で作っているものと同じ名称を使うのはいいのだろうかと思っています。

 いくら好みのレベルと言っても、たとえば化学繊維30%入りの和服を絹の着物として、御婦人方は買われるでしょうか。本来の香りもあまりしないイミテーションのブランデーをフランス人が、あるいは米やとうもろこしまで入ったビールを本場のドイツ人が(1回くらいは試しに飲んだとしても)、「おいしい」と言ってずっと飲むのでしょうか。米の入ったビールは、正確な品質表示は、『米入りビール』の方がその表記に近いのではないでしょうか。

 また、正直に(せめてタバコ箱の表示と似たように)「この日本酒は、水飴や化学調味料を入れて作った酒ですので飲みすぎたら、糖尿病などになりやすです。でも、その分本来の製法で作った日本酒より少しだけお安いです」とか、「このウィスキーは合成酒ですから、飲みすぎたら二日酔いで頭がジンジン、ガンガンしますよ」(私の経験上、本当に本来の原材料(自然素材)でのみで作ったお酒は、いずれの酒類も心地良い酔いは残っても、頭がガンガンする二日酔いはありませんでした)とか、ラベルに書いてもいいのではないでしょうか。

 この本や酒の本質を知った当時は、まだ、本来の製法である麦芽100%のビールは、日本では一銘柄位だけでしたが、その後少しづつ増えてきました。また、日本酒では、当時から(経営的に恵まれていない中でも)地方の酒蔵を中心として、杜氏さんたちが職人魂を発揮して、おいしい酒、お客さんに喜んでもらえる酒作りにそれこそ、日夜心血注いで製造されているメーカーがあったことも知っています。(もちろん、現在も頑張っておられます)

 日本酒は神の代の昔からあり、ビールはエジプトの時代から製造されていた歴史があり、その製法は自然素材であり、本来の作り方だったのです。日本の現状の(本来の製法から外れた)作り方は、この長い歴史からすれば、まだ短く、取り直しが効く期間とも思えます。

 さらには、一般消費者の方も嗜好品ではありますが、酒に関しても原材料や品質に目がいくようになれば、状況は変わってくる可能性も大だと思います。このように述べている私も今回の言葉を知るまで恥ずかしながら、コマーシャルやイメージだけでしか酒を買っていませんでした。

 酒には神が宿るとして昔から大事されてきました。今は、古代からの神様もいらっしゃるし、現代には「お客様は神様」もいらっしゃいます。この両方の力が発揮されれば、日本の現状の(本来の製法から外れた)酒の作り方は(法律の問題も含めて)、いずれまた変わる展開を見せるかもしれません。(記:2003年2月16日)
 

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