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聞いた言葉・第57回目、『観光のキーワードは花と緑と食

 
観光のキーワードは花と緑と食

 今回のこの言葉は、いつも色々と相談に乗って下さっている方が、長崎県大村市内で開催された観光についての講演に参加された時に、その講師の方から聞いた内容の一部です。実際はもう少し長く、「従来の観光客誘致の箱物・施設型(建物や施設を造って開発するやり方)は、一部を除き、ごとごとく失敗している。観光客は建物や施設などを造った後に数回は来るかもしれないが、その後は来ない。それよりも、自然そのままを生かした観光が長続きするし、成功もしている。これからの観光のキーワードは花と緑と食だ」と。

 この話をもう少し説明しますと、全国どこでもバブル期やその後も観光誘致策として大型の箱物(上物)やレジャー施設などを造ったが、破綻や大赤字続きで、中には地方自治体の財政に重大な影響まで及ぼしています。

 また、年間どこかで必ずおこなわれている「○○○博」などのイベント行事も、その時期は観光客に来て頂けるが終わればその反動でサッパリもしくは、さらにイベント前より悪くなったとも聞きます。

 この講師の指摘はまさしくその通りで、日本の沢山ある施設で成功しているのは、東京ディズニーランドだけではないでしょうか。そこを除けば、もう誰の目にも従来の箱物・施設型観光客誘致策の破綻は明らかになっています。

 理由は様々あるのですが、高額な費用を使って今までそこの地域になかった建物やレジャー施設を見たり利用したりするのは、1回かせいぜい数回までだと言うことだと思います。また、似たような施設なら、わざわざお金使って遠くまで行く必要もないと思います。

 それとは対照的な例を紹介します。私の『ストラスブール旅行記』でも書いていますフランス・アルザス地域の小さな村『リクヴィール』は人口約1200人ですが、ここを訪れる観光客は毎日平日でも数千人、祭りなどのシーズンには、人口の何倍にもなると聞きました。この村は、日本なら鎌倉時代から城壁に囲まれた村が、ほぼ原型のまま今も見られ、それ以外は日本のどこかの町がすっぽり入る位のブドウ畑が広がるのどかな所です。

 家々(個人の家を含めて)の軒先や庭には季節の花々が咲き乱れていました。また、自家用車も乗り入れ禁止みたいでしたから、ゆっくり歩いて散策できる村です。もちろん、まわりブドウ畑ばかりですからワイン飲むのもいいし、タルトフランベやベックオフを始めとした郷土食も美味しかったです。このようなことは、このリクヴィール村ばかりではなくアルザス地方の『リボーヴィレ』やその他の町村でも状況は、ほぼ同様でした。

 パリからはかなり離れていて交通の便もあまり良くないのですが、日本人観光客も多かったです。このアルザスの町や村は、けっして目立った建物や施設があるわけではなく、つまり、今回の言葉の「花と緑と食」と同じような魅力だったと思います。「作りモノ」の嘘や偽りの世界ではなく、まさしく本物の、あるがままの、自然そのもの魅力に人間は引かれていくと言うことではないでしょうか。

 このことは、日本に置き換えてみれば、せっかくいい自然や本物の人間味あふれる地域があるのに、そこに建物や施設を造れば、逆に観光客に来てもらえない原因やトドメをさしていると思えた程です。

 念のために、このアルザスの町や村は総ての新たな建物や施設までをも否定している訳ではなく、人が往来する以上必ず必要なトイレ、案内所、駐車場、案内板など最小限なものはむしろキッチリ完備されていました。また、日本では観光地でも当たり前ようにある電柱や電線も地下埋設で、そのおかげで空が広く感じ思わず写真何十枚も撮る気になりました。

 また、この町や村は最近になって急に観光客が増えた訳ではなく、相当な年数と地道な努力を経て今日があると思います。このアルザスの状況のまとめは「今アルザスが面白い2、なぜ活気があり豊かなのか」をはじめ、一連の関係するページに詳細に書いていますので、そちらも、ご参考までに、ご覧頂けないでしょうか)

 私の住んでいる長崎県や大村市でも、このアルザス地域の実例は通用するような気がします。特効薬のように直ぐに今回講師の語れらた言葉は効く訳がありません。しかし、幾世代までも環境を守り、ずっとずっと何十回も観光客に来て頂くには「花と緑と食」」を基調に、「箱物さんサヨナラ、自然と本物さんコンニチハ」みたいなやり方が結局は長続きする秘訣だと思います。
 (記:2006年1月8日)

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