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ケントスで踊っていたTシャツ男

私が50〜60年代のアメリカンポップス(オールディーズ)を好きなので『札幌ケントス』に連れて行ってもらうことにした。私は確か87年12月に一人で来たことがあった。ここは泊まっているホテルの真横にあり、「上野さん、ここなら這ってでも帰れますよ」と冗談言われながら店に入った。

 いつもお世話になっている大阪『梅田ケントス』の店長からもらったボトル無料券を見せながら、「これ使えますかね」「ええ、どうぞ、どうぞ」と、席に案内された。 ここで6年前に自分の書いたリクエストカードを当時のバンド「リトルベアーズ」の女性ヴォーカルが「遠い大阪から来られた上野さんです」とステージ中にマイクで読まれた。

 紹介と同時にスポットライトが私に当てられ慌ててカウンターの下に頭を下げたところ、また「照れ性の方みたいですね」とさらに店内に響くように言われ恥ずかしかったことを良く覚えていた。長年こなかったこともあり、懐かしかった。顔を隠したカウンターも含め内装はほとんどそのままだったが、少しだけどこかレイアウトが変わったような気がした。

 中は丁度演奏中でいつも聞いている踊りやすいオールディーズの曲がさらに大きく聞こえた。バンドのメンバーは当然替わっておられたが、名前だけは今も「リトルベアーズ」そのままであった。カナディアンクラブのウィスキーと各ワンフードを頼み、ボトルカードにサインをした。頭をカードから上げ、何気なくステージ左奥で踊っているTシャツの男に目がいった。

 会社は違うが同じ大阪空港で働いている友人に似ている。「あっ、あいつだ」 名前を呼び、手招きするとこちらに来た。「コラッー、おまえ何やっとん。冬の北海道でTシャツ1枚でおどらんでもよかとやろうが」と、怒鳴る時は大阪弁、長崎弁と無茶苦茶である。「上野ちゃんこそ、なんでここにおるんや? しかも女の人も一緒に」「こちらは丘珠のエアニッポン航空のスチュワーデスさんと整備さん」

 熟年グループはもう出来上がっておられた。オールディーズの曲が丁度青春時代に聞かれた方ばかりなのか、ダンスも含め盛り上がっておられた。これからは互いのテーブルで自己紹介されたり、手を引くようにステージ前で踊られたりと、熟年パワー炸裂だった。でも、私の不慣れもあるのか、見ず知らずのこのような女性からの話しやダンスの誘いは何か脅威を感じた。

 生演奏のステージも2回(約2時間近く)終わり、熟年グループはまだまだ余韻醒めやらずのなか帰られた。予想外の展開や賑やかに騒げたことに驚きつつも、台風の過ぎ去った後の青空を見た思いがした。私たちも少し間を置き出ることにし、ここでスチュワーデスの方と「お休みなさい」「今日はありがとうございました」との挨拶を交わし別れた。外は北国、店の中での汗が引いていった。

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