TOP  INDEX  BACK  NEXT

高木さんのイタリア遊学記
フィレンツェのびっくり(1)
小銭で支払い
 フィレンツェ駅の階段の並びに小さなストアがある。店内は狭く、食品も少し高い。しかし、駅の利用者にとっては便利でちょっとした買物には充分だった。ホームスティしている時、バスが始発だったこともあってよく利用した。レジは2ケ所あり、当然ながらいつも混んでいた。

サンタ・マリア・ノヴェッラ教会
 夕方のある日、レジのカウンターで支払いをしている時、チラッと隣のレジを見た。すると、50代ぐらいのおばさんが袋一杯の小銭を出している。大きさはA4ぐらいで透明のビニールからは何と1チェンティージミ(1ユーロの百分の一)の硬貨だけだ。日本では1円にあたる。

 レジの女性は呆れた様子で両手を頭に上げ、「オォ〜」と静かに叫んでいる。しばらくすると、気持ちを切り替えたのか普段の顔つきに戻り、硬貨を2つずつ数え始めた。おそらく、今から何十分間はゆうにかかるだろう。レジに並んでいるお客は事情を察したようで、ざわざわし出した。

 私の列は瞬く間に数人が移って来た。日本ではこのような光景に遭遇することは皆無だと思う。女性は周りのことは一向に気にしない涼しい顔で支払いをしている。なるほど国が違えばこうも違うのかなあとあの時のことは強く印象に残っている。

犬の糞
 世界遺産の美しい中世の街フィレンツェでも「えっ、本当?」と信じられない光景もある。そのひとつが犬の糞だ。道路や歩道にもう充分と言うほど見かける。犬と一緒に散歩している姿を見ていると微笑ましいが糞を入れる袋を持っている人はほとんどいない。

 ここではあと始末などしないのが普通なのかも知れない。また、広い公園では野放しにして自由にさせるので犬は喜んで走り回る。犬が嫌いな人は気が気ではないだろう。だから、きれいな緑の草の中にくつろぐ時など犬の糞に要注意だ。

 歩道を歩いているととんでもないことに遭遇する。足元を見ていなかった為に犬の糞を踏んでしまうのである。よく見ると、何人かの人に踏まれた足跡がある。「あぁ〜それなのに踏んでしまった。あぁ〜最悪。助〜けて!」その時は道路の水溜りか、公園の水道で余計な時間を費やすことになる。同時に自分の不注意を嘆くことしきりだ。

専門店のおばさん
 工具や道具類に興味があったので、よく専門店をのぞいた。どの店も天井までぎっしりと陳列されていて、珍しいものがたくさんあった。アウトドアの装備一式、厨房の調理器具、車の工具類、電動工具(イタリアは200ボルトなので日本ではこのままでは使えない)その他、刃物類も揃っていた。(そして、必ずと言っていいほど日本の包丁もあった)。

 「これは何だろう?」「これはどんな時に使うのだろう?」「これはいいなあ!」「ほしいなあ!」「これはいくら位するのだろう!」と、あぁ〜ため息が出る。洗練されたシンプルなデザインを見ると胸がわくわくしてくる。

 フィレンツェのサンタクロチェ教会の地階にある革工房を覗いた時もそうだった。私には、物を作りたいという職人の血がかすかに流れているのかも知れない。革の何とも言えない光沢や手触り、金属の鈍い輝きや質感。何時間見ていてもあきない。

 ある日、学校の近くの金物屋で砥石を買うことにした。ナイフをこちらで買っていたのでそれを砥ぐためだ。私の元気な「ボンジョルノ」の声に店員らしき年配の女性がやって来た。いつも店に入る時は挨拶をしていたので必ず店の人もこちらを振り向く。そして、「ボンジョルノ、シニョールー」と必ず挨拶を返してくれる。

ブティック
 砥石はイタリア語で何て言うのか知らなかった。事前に単語を調べていけば苦労はないのに、いつもぶっつけ本番というか計画性がない行き当たりばったりの買物だった。あるのは勇気だけだった。

 ジェスチャーでナイフを砥ぐしぐさをする。そして、ナイフではなく、砥石がほしいと適当なイタリア語で話す。彼女は全然、理解できないようだ。店内を見回すが、砥石が見当たらない。最後の切り札で紙に絵を書く。「さらに仕上げ用で一番小さい物。日本に持って帰るから上等をね!」とかなり要求が多い。滞在1ヶ月目ぐらいなので私のでたらめなイタリア語は全然通じていない。当然だった。

 この仕上げ用と言う表現にはジェスチャーとか絵では通用しない。とても難しかった。何て言ったのか覚えていない。年配の彼女は近くの男性の店員にも聞かず、「オー、カピート」(日本語で「わかりました」の過去形)と言って奥の方へ行ってしまった。私は本当に分ったのだろうかと不思議でならなかった。あの絵だけでわかったのだろうか?

 1分ぐらい待っただろうか?右手に紙に包まれた灰色の石を持って来て、カウンターに広げた。「ベーネ、シニョールー」(どうですか?お客さん)。私は本当に驚いた。すぐにお客の望む物を持ってくるとは。それ程、彼女の知識と経験は素晴らしかった。「グラツェー」とその小さな砥石を触り、大きさや仕上げの程度を確かめた。私の満足する砥石だった。

 彼女の応対もそうだったが、商品についても男性に聞くこともなく、探す姿勢は自信に満ちていた。この店に限らず、専門店には年配の女性を多く見かける。客との応対ぶりを見ているとかなり詳しい説明をしているし、反応がすばやい。実に感心する。そして、本当に気持ちがいい対応だ。

ATM
 チェントロ(中心地)にはATMが本当に多い。100m周辺におそらく、7〜8ヵ所はあるだろう。いや、それ以上あるかも知れない。日本ではしっかりと隔離されて設置されているが、イタリアではそのまま通りに露出されている。雨、陽ざらしなのでATMの外観も色あせ、本当に現金が出てくるのかと内心、不安になる。

 特に直射日光が当たる液晶の画面は薄く見えるので、注意力が必要だ。狭い歩道上で操作している時、通行人は必ず車道の方へ避けて通らなければならない。便利で重宝するかわり、まわりに危険もそれなりに多い。

 暗証番号を打ち込む時や、現金を手にする時など泥棒や引ったくりが多い国柄、この時ばかりは緊張する。現に「あそこのATMは250ユーロ以上は出ない」とか、「ここのATMはスキミングされて相当の被害が出ているから行かない方がいい」とか、「100、50ユーロ札など偽札も多いから小さい札がいいよ」とかよく話を聞いていた。

クラシックカーレース
 バスでフィーゾレ(フィレンツェ市内を展望出来る丘)に向かっている時、サンマルコ広場の停留所で停車したまま、いっこうに発車する気配がない。「何だろう?」「故障かな〜?」とまわりを見回す。しばらくすると乗客は後ろを眺めだした。みんなソワソワしている。両側の沿道にも人が集まってきた。さては、「フィレンツェ伝統のパレードでも始まるのかなあ」と勝手な想像をしながら期待する。

アルノ川
 すると、向こうから自動車らしいエンジンの音がしてきた。だんだんと大きくなってくる。めずらしい車が2台、なんとこのバスの前に止まるではないか。この場所がレースの中継地になっていたようだ。私はこの偶然のすばらしい出来事に遭遇して本当に嬉しくなった。

 車はクラシックカーで屋根がないオープンカーだ。 ボディがシルバー、赤、黄、白、青色と実にきれいだ。ワックスがきいているのだろう、フロントからリアーまでピカピカと光っている。もちろんガラスも。そして、タイヤも黒光りしている。乗っているふたり連れのドライバーは60歳ぐらいに見えるだろうか?白髪とひげがよく似合っている。映画に出てくるそのままの紳士達に見える。何とも華やかさが感じられる。

 若い頃は車に興味があり、オートバイや車の雑誌をよく買ってよく読んだものだ。当時はモータリゼーションの始まりで、話題に事欠かなかった。だから今、目の前に現れた憧れのクラシックカーを見た時は本当に感激してしまった。

携帯電話の故障
 携帯電話(160ユーロで購入。約24,000円。パソコンと接続し、インターネット使用)で話している時、突然声が聞こえなくなってしまった。全然聞こえない。内蔵されているスピーカーがおかしいと思ったので、すぐに購入した店に持っていった。日本だったら1週間もあれば充分、修理可能だ。しかし、「まあ、イタリアだから10日はかかるだろうなあ!」と思い、カウンターで修理期間を聞く。

 30代ぐらいの彼は2週間後にまた、この店に来るように応えた。まあ、いい加減に長いが仕方ない。ここは日本ではない。仕方ない。その後、約束の日に「本当に修理出来ているかなあ?」と半ば、期待はそこそこにして、ドォーモの近くのあの店へ入った。

 彼がいたので書類の控えを見せ、「携帯電話の修理、終わっている」と話す。彼は案の定、両手を上げて「まだあなたの携帯はこちらに来ていない」。との返事。「いつ出来るの?」「もうすぐです」。と会話。こちらも絶対にまだ修理は終わっていないだろうと思っていたのでそんなに驚かない。そして、3日後に「いくら何でも今度は直っているだろう」と思い、期待して店へ入った。

 あいにく彼はいなかった。仕方がないので他の40代位の店員に書類の控えを見せ、たずねる。聞くや否や、「彼はインフルエンザで今日は休んでいる」。とのこと。だから、「全然わからない」と言っている。ただ、こちらは携帯の修理が終わっているのかどうか聞いているのに。彼がいないと全然分からないときている。個人じゃなく、店としての対応を聞いているのに全く。例の両手を上げて「オオー、ノー」のパターンだ。このジェスチャーには本当に慣れてしまって腹も立たなくなっていた。

 3週間目に店へ行った。もう、この店に来ること4回目。彼はいた。私を見るなり、「ジャーポネー(日本人)」と笑顔で私の方へやってきた。こちらは何も言わないのに修理した携帯電話をアルミ製の特別のケースに入れて持ってきた。そして、「このケースはあなただけにつけます」と言っている。

 別に上等のケースでもないのに大げさな男だ。修理が遅かったので少し、お茶を濁している感じだろう。愛想も態度も別人のように良かった。気味が悪いくらいの応対だった。当然、修理費用は無料だ。有料だったら、イタリア語ではなく日本語でかなりの文句を言っただろう。まして、修理費用など絶対払うつもりはなかった。この時の私の態度はいい加減遅い修理に冷静さを失い、頭に来ていたので全然笑顔がなかった。

狭い路地
女性のバイク
 自転車も多いがバイクも負けてはいない。フィレンツェ駅や大きな通りには必ず隙間なくぎっしりと並んで駐車されているバイクを見かける。初めてこの光景を見た時「この状態で、自分のバイクをうまく取り出すことができるのだろうかと?」と余計な心配をしてしまった。

 また、街中を走っている若い女性のライダーが何と多いことか。長崎でも近年、女性のライダーを見ることが増えてきたが、ここフィレンツェの比ではない。暑い中、日焼けも気にならないのか、ほとんどの女性のライダーは素肌で元気にバイクに乗っている。長い金髪をなびかせて走る姿はつい見とれてしまう。

 地下鉄がないので朝の通勤時はバス、車、バイクが集中する。中世時代そのままの狭い路地も多いので、周辺に勤めている場合、バイクが絶対に便利だ。若い女性がヘルメットを片手に持って歩いている姿は結構見掛ける。

8月にひょうが降る
 日曜日の昼頃、アパートで小説(もちろん日本)を読んでいた。すると、外の方で勢いのある雨音が聞こえてきた。「いい天気だったのに雨になったのかなあ?」と特に驚きもしなかったが一応見る。これまでも何回、何十回となく街中や公園で「急に降り出した雨」に打たれていたからだ。

 こちらの雨はいきなり、それも本格的に降ってくる。だから、濡れ方も激しい。しかし、一日中降ることはなかった。雨にしては音が余りにも大きいので窓の外を見た。私は驚いた。同時にこの光景が信じられなかった。8月というのにヒョウが降っていた。

 中学生の頃、英語の授業ということで、学校から全校生徒で出かけた宗教映画の大作「十戒」を思い出した。エジプトの宮殿に降って来たあの場面だ。ここフィレンツェでも同じように降ってきた。寒い季節にはこれまで何度も体験したことがあるが。この夏の暑い盛りに・・・生まれて初めてのことだった。

生協の店内
 約5分間ぐらい降り続いたと思う。大きさはベアリングの玉ぐらいだろうか?当たると痛いのはもちろんだが、下手をすると怪我する。後日聞いた知人の話によると、その時山へキノコを採りに行ってたそうだ。彼は不機嫌そうに「日本製のトヨタがへこんでしまった」と話してくれた。1ヶ月後、彼の自宅でその車を見たが、確かに新車の鉄板が所々、へこんでいた。可哀想に!

冷凍食品のはかり売り
 冷凍食品が計り売りされていた。係りの人がすぐ傍にいるので、自分のほしい量だけ伝えれば袋へ入れてくれる。近年の日本では見られなくなってきた光景だ。もちろん1ユーロからOKだ。おもに小さな海産物や野菜類がほとんどで、何だか知らない珍しい物もたくさんあった。他にも果物や野菜もある。品定めする時はばい菌防止の為、薄いナイロンの透明の手袋をはめなければばならない。じゃかいも1個とか、にんじん1個でも可能だ。ひとりで生活している者には本当に助かる。

レジの順番譲り
 生ハム1パックとかパン1個とか、ただの1〜2品だけ買うこともたびたびあった。その時は大体、週末が多く、近くの大手スーパー「エッセルンガ」にスリッパを履きながらTシャツで出かけていた。しかし、レジに並んでいる人の多さとその買物の異常な量を見ると、もう、うんざりだった。

 店に来たことを後悔しながらレジの長い列に並ぶしかない。ため息をつきながら列の後ろに並ぶ。すると、前に並んでいたご婦人は私を見て、手に持っていた買物の少なさに驚き「プレーゴ(どうぞ)」と前に順番を譲ってくれた。何回もあった。親切にされるとどんな時でもうれしくなる。その時は笑顔で「グラツェー(ありがとう)」と応える。こういう時は帰り道もルンルン気分になってしまう。

マナーがいい
 街中やバスや汽車の中、ありとあらゆる所で失礼なことがあれば必ず、自分から「スクージイ(ごめんなさい)」とあやまられる。ちょっと体がぶつかったり、物が当たったり相手に不愉快な事をした時、自然とさりげなくその言葉が出てくる。知らん顔をする人は100%いない。表現が豊かなのはもちろんだがモラルが高いと言うか、個人のマナーの高さを感じることが多い。

ゴミ箱
ゴミ箱が多い
 フィレンツェ市内には分別用のボックスが道路上に設置されている。「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」「資源用」と3個がセットだ。それぞれ長さは2mはあり、鉄製だ。とても大きくて頑丈だ。ごみ回収時は大型のトラックがクレーンで吊り上げ、ゴミを回収する。作業員は運転者以外だれもいない。狭い道での作業(約10分間位だろうか)は離合出来ないので車も通れない。当然、バスもストップすることになる。その時は乗客も心得たもので、終了するまで静かに待っている。文句を言う人は誰もいない。

 その他にも公園やバスの停留所に、黒い小さなごみ箱が数多く設置されている。その多さにびっくりするだろう。分別されていないので、あらゆる物が捨てられている。生ゴミ、空き缶、空き瓶、プラスチックの包装箱等何でも有りだ。

 回収する人も大変だろう。市当局は世界遺産の観光地でもあり、美化には日々努めているのを感じるが、現実はほど遠い。ゴミ箱は溢れ、周辺にはゴミが散乱している状況だ。 
掲載日:2007年7月12日

TOP  INDEX  BACK  NEXT