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聞いた言葉・第116回目、『時代の寵児、堕ちた偶像』

時代の寵児、堕ちた偶像

 『時代の寵児、堕ちた偶像』の言葉の、寵児とは国語辞典の大辞泉によると「その時代の風潮に合った才能を発揮して成功し、人々にもてはやされる人」と書いてあります。また、同様に偶像についての解説では「あこがれや崇拝の対象となるもの」などと記されています。これらの言葉がいつの年代から活発に使われているのか、私は不勉強のため良く分かりません。ただ、いずれにして新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、現代ならインターネット含めてメディアの出現抜きして語れない言葉であろうとも思います。

  また、この『時代の寵児』みたいな雰囲気の中で同時に使われる、あるいはその別称みたいにして使用されるのが、例えば「・・・界の大物」、「怪物・・・」、「カリスマ・・・」、「・・・の風雲児」、「・・・名人」などとも称される場合もあります。さらには、もっと精神的な表現で、「・・・界の教祖的存在」、「・・・に関しては理論的指導者」、「あの人が入れば今までの空気が変わる」とか「オーラを放っている」なども聞いた覚えがあります。さらには「・・・の神様」みたいな表現もあったと思います。

 今のようにメディアが発達していない頃は、そのような人がいたとしても、まず、その人の周辺、地域、さらに口コミで伝わる中、徐々に広がり県単位や全国レベルになった場合もあると思われます。このような時代なら伝わるにしても時間がかかりますから、本当にその実力のある人でないと、そうならなかったはずです。なぜなら、そんなに力がない人が、もしも祭り上げられていれば各地に伝わる内に「実力」がばれてしまうからです。

 ただ、近代ではメディア媒体の発達はすさまじく、ある限られた期間に、これでもかこれでもかと言うくらいに 一気集中的に「時代の寵児」を”演出”する例も見受けられます。本当に裏付けや確認が出来ていないのに、ただ見かけの現象面だけをとらえ、報道される場合もあります。

 私流に考えるなら、本当に自らの才能あるいは体力勝負の世界、例えば音楽界やスポーツ界で「時代の寵児」をメディアが演出したとしても、早晩誰でもが、その実力を知るし、たとえそうでなかったとしても「なんだあ、評判と違うではないか」で終わると思います。しかし、問題なのは、政治や経済のことで、もしも「時代の寵児」を、その世界で演出したとしたら、それは国民生活へも直接間接に問題が発生するのではないかなあとも思います。

 (やや「寵児」と言う表現にはふさわしくないのですが)分かりやす例として、「自民党をぶっ壊す」とか「郵政改革は行政改革の本丸だ」など威勢のいい話をする政治家をメディアは、あたかもそれは本当に「国民のためになるがごとく」連日連夜報道しました。その結果は皆様ご存知の通り、壊されたのは国民生活や地方の郵便局の方でした。また、郵政選挙では大量の議席まで得ました。しかし、本当の意味の行政改革はおこなわれず、不祥事続きには変わりなく、より深刻化しました。

 結局のところ国民のためでなくアメリカと大企業の喜ぶ政治ばかりをしたと思われます。つまり、マスコミが演出した「時代の寵児」によって、国民は騙されたと言うことでしょう。あと、この時代に、もう一つ忘れてはならないのはイラク戦争にもアメリカの言いなりに加担し、その当時マスコミは「今回のイラク戦争はやむを得ない」として事実上、政府と同じような立場で報道しました。

 しかし、これも戦争の大義名分にしていた大量破壊兵器について、アメリカ自身が「大量破壊兵器はなかった」と議会証言や報告書で述べました。今までもイラクでは全く罪のない民間人の多数が犠牲者になっていますが、このようなことを推進したり容認した人達は、何も感じないのでしょうか。(このイラク戦争関係の報道については、聞いた言葉・第68回目、『真実を自分で探す時代』をご参照願います )

 話しは変わりますが、経済関係でマスコミによって作られた「時代の寵児」を信じた人の中には大損した方もいらっしゃるのではないでしょうか。なぜなら、報道などで連日取り上げられる経営者のいる会社は、たとえ本当の実力がなくても、あたかも社会からも注目されている、あるいは成長が期待されるのではと写るから、ついその会社の株を購入される場合もあるからです。

 全部がぜんぶの会社では当然ありませんが、こんな時代に「急成長した」とか「高収益を上げ続けている」などの報道は、将来の成長まで確約した中身なのでしょうか。どこの産業も同じ法律のもとで人件費を始め宣伝費などのコストその他かかる経費は、びっくりするほど違うものでしょうか。大きなヒット商品があれば別でしょうが、いつまでも「急成長」、「高収益」ばかりではなく、裏に何かないのか、そこも含めて見ないと、ただ現象面だけで持てはやすのは問題だと思います。

 あと、経済関係でもう一つ、かつては「金融の神様」みたいにも称されたアメリカのグリーン・スパンFRB前議長ですが、今回のサブプライムローンなどが端緒で起こった金融危機について、彼は(2008年10月23日)アメリカ議会の証言で「過ちを犯した」と認めました。一時期、彼の一挙一刀足、片言隻句までマスコミは取り上げて、それで株価が大きく動きました。

 しかし、彼は、まるでギャンブル経済の象徴みたいなサブプライムローンなどの金融派生商品に対して楽観的な見解を当時述べて、結果として今回の金融システム崩壊まで繋がるようになってきました。(聞いた言葉・第114回目「カジノ経済、ギャンブル経済の宿命」、第115回目「国家管理の資本主義」もご参照願います) そのような経過もあり、現在逆に彼はこの未曾有の金融危機の”戦犯”みたいにも言われています。

私の関係ホームページ
 国家管理の資本主義
 カジノ経済、ギャンブル経済の宿命
 経済=経国済民
 資本主義の暴走、資本主義の暴力
 日本売り

 悪貨は良貨を駆逐する(グレシャムの法則)

 真実を自分で探す時代

 今までいくつかの例を挙げてきましたが、政治や経済関係にいる人を一時期マスコミはこぞって『時代の寵児』のごとく一気集中して報道し、逆に何らかの理由で国民から離反されれば、今度は『堕ちた偶像』として扱います。本当に得手勝手なもので、それらによって「信用されられ」、結果被害や困難を被った国民のことなど全く構わないようなやり方は、大きな問題ではないでしょうか。

  あともう一つマスコミの不公平さは、当時”演出”している「時代の寵児」のやり方と違って、本当に国民のためになるような立場で頑張っている人たちのことを取り上げないか、もしくは扱いが小さいか、事実上黙殺する行為です。ただし、結果は「時代の寵児」やマスコミの思い通りにならず、案の定と言いますか、現実はマスコミから黙殺された人達の主張していた流れになっているのは歴史の皮肉としか言いようがないような気がします。

(記:2008年11月6日)

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