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高木さんのイタリア遊学記
フィレンツェ生活での心がけ
ドーモ教会前の通り
ATM(現金自動支払機)の対応
 毎月、1,000ユーロの現金をカードで引き出していた。その場所はレプッブリカ広場の前にありフィレンツェ最大の本屋「エジソン」の並びだ。フィレンツェ中央駅の地下やドーモの周辺のATMは全て試みたが1回で1,000ユーロの現金が出てくるのはここしかなかった。

キャッシュカード
 カードは長崎の「みずほ銀行」で外国専用の国際シティカードとして作ったもので、イタリアの銀行とも提携している。1回に付き1%の手数料が掛かり、同時に日本の「みずほ銀行」の手数料も250円掛かるとのこと。したがって、小額で何回も引き出していたら、手数料の分だけで昼のランチが食べられることになる。そんなもったいないことは生活がかかっている私には絶対できなかった。

わからない
 イタリアのATMはどう使うのか全然わからなかった。日本でも余り利用した事がなかったのだから、ここフィレンツェのATMを満足に操作出来るわけがない。しかし、わからないでは済まされない。とにもかくにも、この機械でお金を引き出さなければこれから先、何も出来ない。生活出来ないのだ。「あぁ〜このATMはどう使うのだろう?」何事にものんびり屋な性格の私は本当に困ってしまった。

ある考え
 ホームスティの大家さんに聞くと多分、親切に教えてくれるだろう。しかし、こればっかりは他人の手を借りず、自分でマスターしなければならない必須のことだ。そう考えているうちに、ある考えが浮かび、実行することにした。それはATMを利用している人達の操作を見る事だった。なるほど、それが一番いい。私は少し離れた所から気付かれないように注意しながら、他人の操作の一部始終を見ることにした。

フィレンツェ駅の構内
観察
 そのためには事前にATMの画面に表示される項目の位置を覚えておく必要がある。そうすることによって、タッチしている所がどの辺か、また本人が何をしているのか大体分かってくる。「暗証番号の4桁を打っているらしい指の動き」「選択する金額を選んでどれにしようかと少し考えて、画面をタ ッチしている様子」あるいは「自分の希望する金額を自由に打ち込んでいるすばやい手の動き」「カードを挿入するタイミング」「お金が出てくるまでの時間」「あの人は引き出す金額を考えているのかなあ?画面をじっと見て動かないぞ」各人、各様見ているとおもしろい。

不審者
 「あの要領でやればいいんだぁ〜」何人もつづけて見ていると少しづつわかって来た。しかし、何人かは私の気配に気付き、何回もこちらを振り向きながら体を斜めにし、用心している。私は絶対に不審者と思われていた。そう思われても仕方がない。かと言ってこの場所を離れる訳には行かなかった。

危険
 イタリアのATMは、ほとんどが通りに面していて何の囲いもない。引き出した現金を一瞬のうちに、後ろから走って来て、盗もうと思えば簡単だ。だから、利用している人はいつも危険と隣合わせと言うことになる。大金を引き出す時は、当然ながら周囲を見回すぐらいの注意が必要だ。

決断
 人通りが少なくなって来たので私は決断した。「何とかなるだろう」と思い、自分でやって見ることにした。ここまで来たらやるしかない。初めての挑戦なので少し緊張する。画面を見てみると、各国の国旗が表示されており、どれかタッチするとその国の言語で説明される。私は当然イタリア語を選び、タッチをして行く。

おかしい
 言葉はわからないのでほとんど勘に頼るしかない。希望金額の選択、暗証番号の打ち込み、カードの挿入のタイミング、1回、2回と試みたが何の反応も無い。「どこがおかしいのだろう?」少し、焦ってきた。気が付くと2〜3歩離れて後ろに中年の男性が待っていた。少し、けげんそうな顔をして私のしぐさを見ている。

フィレンツェ駅の構内

譲る
 私は操作をあきらめ、例の肩をすぼめ、両手を少し上げるゼスチャーをし、相手に「プレーゴ」と笑顔で場所を譲った。彼も目だけ笑っている感じで「グラチェー」と私に返事をする。今までに100%の人は「プレーゴ」と私が言ったら必ず「グラチェー」と返答してくれる。知らん顔する人がいない。この当たり前の会話が本当にうれしく感じる。そして、気持ちいい。

祈り
 「なぜ、機械が動かなかったのだろう?」原因を確かめるため、場所を譲った中年の男性の操作をじっくりと観察した。その後、2〜3人やり過ごして再度挑戦した。今度は手順を確かめるように少し、ゆっくりタッチしていく。選択金額を選ばず、その他の項目をタッチし、希望金額の1,000ユーロを確かめながら打つ。祈る気持ちでカードを優しく挿入していく。

喜び
 しばらくしてATMの音が軽やかに鳴り出した。待つこと約20〜30秒ぐらい。50ユーロ札で20枚。本当に出てきた。同時にカードも出ている。「やったあ〜!」私は最高にうれしかった。そして、幸運の女神に心から感謝した。これからのフィレンツェ生活で最も大事なことをマスター出来た喜びは何事にも疎い初心者の私に自信をあたえてくれた。

フィレンツェ中央駅の構内放送
 正しい名称はサンタ・マリア・ノヴェッラ駅と言い、16番ホームまである。本当に広くて長い。また、大屋根にはガラスを多く使っているので構内は明るく、近代的な駅だ。そして、いつもこの駅に来ていたのは理由があった。「構内放送をわかるまで聞くこと」「切符の自動発券機をマスターすること」「列車の種類と発着のホームを覚えること」この3つのためだった。そうしないとどこにも行けないからだ。また、路線バスの始発駅でもあったのでよく来た。おそらく100回以上は来ている。2005年のイギリスであったテロの時はここフィレンツェ駅も毎日のように警察官と警察犬が巡回していたのを覚えている。

きれいな発音
 構内放送の女性の声はきれかった。若い声ではなかったが駅の雑踏の中でもはっきりと聞きとれ、何よりも発音がきれいで、切れがすばらしかった。イタリア語のヒヤリングの勉強にこれ以上のものはなかった。何回も何回も聞いているうちに1つ1つの単語がわかり、だんだんと何を言っているのか分かってきた。都市の名前、列車の種類、発着の時刻、ホームの番号、列車の遅れ。毎回、正確に放送している。男性も放送していたが余り印象にない。

トーマスクックの時刻表

トーマスクックの時刻表
 私はトーマスクックの世界の時刻表を持っていたのでフィレンツェ駅の時刻表とよく、確認していた。殆ど記載の通りで「さすが日本の物はすばらしい」と感心したものだ。それからというもの旅行する際の必需品となり、ほかの物は忘れてもこの本だけは絶対忘れなかった。小旅行を予定している時など、このトーマスクックの時刻表片手に自動発券機でどのルートが一番安いか、よく往復の料金を調べた。

おもしろい
 この機械はイタリア国内であればどこからでも発着の駅を指定できる。日時や時刻、列車の種類、1〜2等の指定、禁煙席、窓側、通路側の選択、画面の項目等を選択しながら順次タッチしていく。最後に現金払いか、カードの支払いかを聞いてきて切符が発券されるようになっている。完了までの所要時間はわずか60秒ちょっと。人気があるのも頷ける。

経験
 いつもこのフィレンツェ駅の窓口は観光客で混んでおり、20〜30分は並んで切符を買っている。したがって、この自動発券機は時間もかからず、発券できるので本当に人気があった。最初はいつものことだが、この機械の操作が全然わからなかった。しかし、こういう時はATMのいい例がある。人がやっていることを見て勉強するのが一番良い。ATMの場合は隠れて見ていたが、この自動発券機はその必要は全くない。堂々と横から眺めることが出来る。

練習
 こちらは旅行者ではないので時間は自由だ。何の制約もない。何時間でもわかるまで傍観可能だ。私は、確か全部で8台(窓口2台、観光案内所2台、構内4台の設置)ある自動発券機で空いている所があれば、積極的に練習をした。切符は買わないので見ている人は不思議だったに違いない。

楽しい
 しかし、よくよく他の人を見ていると料金だけ調べる人も結構いた。特急と各駅停車の普通列車の場合、往復の料金の差はどれ位か、また、その日の帰りは夕方可能かそれとも深夜になりそうか?いろいろなケースを調べながら手帳に記録していった。本当に楽しく活用させてもらった。

絵描き(中央)

安い
 イタリアの鉄道はよく遅れたり、ほとんどの列車(ユーロシティは別)は汚れているが、運賃はおそらく先進国では最も安いのではないだろうか?旅行する度に私は日本と欧州各国と較べてそのことを実感した。また、イタリアの鉄道はよく期間限定の安い往復運賃を国内に限らず、近隣の欧州各国へ販売・展開している。かなり安いのでそのキャンペーン期間中に旅行する人も多いと聞いている。

街角の絵かき見学
 ドーモからウッフィツィ美術館、レプップリカ広場、ベッキオ橋、あらゆる主要な観光地には似顔絵から風景画まで自分の作品を描きながら売っている多くの画家がいる。絵は好きなので学校が終わりしだい、ほとんど毎日のように見に出かけた。有名な大通りには大体、10人から15人ぐらい並んで描いている。ウッフィツィ美術館の前庭は広いのでその倍はいるだろうか?9割が男性だ。女性は少ない。

水彩画
 展示している絵の値段は20〜40ユーロが多く、水彩画がほとんどだ。B5サイズ位で30ユーロ(約4,500円)はする。固形の絵の具を使い、12色で巧みに混ぜながら描いている。しかし、ロレンツォ教会の通りの画家は絵の具はたった3色だった。「この絵は3色でこんなにきれいに描くことが出来るのだろうか?」と本当に驚いてしまった。

似顔絵
 また、似顔絵は鉛筆の太い黒の線が特徴で、大きさはA3サイズ位。描き始めて終わるまで約15〜20分ぐらい。「速いなあ!びっくりする」いきなり目から描いていく。慣れているとはいえ、デッサンの線が生きていて、きれいだ。「すばらしい」と感心する。モデルの人も満足している。ある観光客は小さな写真を見せて、「この似顔絵を描いて下さい」と頼んでいる。画家は注文に応じ、写真をじっと見ながら一生懸命に描いている。「こう言うことも出来るのか!」本当に驚くことも多い。

フィレンツェ、レプップリカ(共和国)広場

美しい
 レプップリカ広場を通った時、女性のデッサン画が目に入った。私は「何てこの絵は美しいのだろう」と感じ、しばらく時間を忘れ、この絵を穴があくほどに見つめた。私が余りにも立ち止まって絵を見ているので画家は「あなたは芸術家か?」とイタリア語で聞いて来た。

 「とんでもない。ただの通りすがりの日本人だ」とイタリア語で返事したかったけれど知らないので言葉が出ない。「いや、違う」これだけしか返答が出来なかった。こんな時に会話が満足に出来たら、お互いどんなに楽しいことだろう。彼も私もそれを望んでいたのにこれ以上の話しはつづかなかった。

専門店まわり
 本屋、革専門店、文房具店、銀・ガラス工芸店、絵画店、骨董屋、金物専門店、日用雑貨店、露店、百貨店(市内には2つしかない)、衣料専門店、食料市場、郊外のホームセンター(イケヤ)どこへでも出かけた。本当によく遅くまで回った。学校の授業より変化にとんでいておもしろい。

いい店
 イタリア語の勉強と同時にいい店を探さなければならない。本屋はどこが一番大きいのか?どんな種類の本があるのか?革の専門店はどこが一番いいのか?そしてどの位安いのか?金物専門店では刃物や道具等はどんなのが揃っているのか?足が棒になるまで歩いた。毎日歩いていたので約6キロは痩せたが、病気もせず心身共に健康だったのは幸運と感謝している。

革の専門店
 フィレンツェの街は世界各国からの観光客が多い。当然人がたくさん集まるところは買物も高くつく。ある日、サンタクロチェ教会の通りの革の専門店で職人の実演があっていた。たまたま、通り過ぎようとしていた私は中へ入って見学することにした。日本人の観光客が15人はいただろうか?イタリア人の流暢な日本語の説明を聞いている。

実演
 革のバッグに金色のラインを焼き付けている工程だ。みんな感心しながら、熱心に見ている。その後はお決まりのショピングの案内。陳列された高級のバッグ、ジャンパー、小物入れ等おみやげにとみんな買っている。店はたくさんの売り上げにホクホクだ。ここの店は高いので有名だった。だから、地元の人は絶対に買わない。ツアーには必ずつきものの、どこでも見かけるシーンに今度は立場を替えての静かな傍観者だった。

雑貨屋

本物
 ピッティ宮殿の近くの専門店では同じ革のジャンパーが200ユーロも安いので、その時はあの店は何て高いのだろうと本当にびっくりした。自分の興味のあるものは、あそこの店ではいくらだったと覚えているので比較することが出来る。

詳しい
 何ヶ月もフィレンツェで生活していると、だんだんと店のあらゆることに詳しくなってくる。また、どの店でも、ちょっとでも店の品物について質問すると、その何倍もの時間をかけて説明してくれる。そんなに話されてもほとんどわからないので「わかりました。わかりました。ありがとう」と相手の話しを中断しながらよく帰った。

イタリアのおばさん
 ある金物屋に爪切りとナイフを買った時のこと。中年のおばさんが出てきて私の注文通り包装してくれた。ふと、横のガラスの陳列棚を見ると日本製の木屋の包丁があるではないか。私はびっくりして、「これは日本の包丁ですね。これは上等ですよ」と覚えたてのイタリア語で何とかイタリアの中年女性に話した。これがいけなかった。

後悔
 彼女は気を良くしたのか早口のイタリア語で喋ってきた。私がイタリア語がペラペラと勘違いしたのだろうか?私は彼女が何を言っているのか全然わからなかった。彼女には申し訳なかったが話しの途中で「グラチェ」と笑顔であいさつして帰った。彼女もわかってくれたのか、肩をすぼめて残念そうに笑顔で見送ってくれた。後で思うと、わからないでももっと聞いてやるべきだったかなあと少し後悔した。
 

掲載日:2007年1月23日

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