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聞いた言葉・第176回目、『農道をキャデラックで走れというのか』

 

農道をキャデラックで走れというのか

 今回の言葉「農道をキャデラックで走れというのか」は、日刊ゲンダイのインターネット版(2013年8月26日付)に掲載された小見出しからです。 大見出しは、<TPP売国交渉 今度は「軽自動車」を米国に献上>です。内容を極簡単に書きますと、 今の日本政府は、アメリカの求めに追従して、軽自動車の税金を普通車と同じように上げる= 改悪していこうという動きが書いてあります。

 つまり、日本の税金さえ変えれば、アメリカ車が沢山売れるだろうと、アメリカ政府(またはアメリカの自動車業界)は思っているのです。今回の言葉の意味は、そのことを 分かりやすく表現するために、「日本人は軽自動車購入をやめて (大型高級乗用車で有名な)キャデラックで狭い農道を走るべきだ」と言っているようなものだと皮肉っているのです。

 はたして、日本の道路幅2mもないような農道を、何万何十万台ものアメリカ大型高級乗用車が走れるようになるでしょうか。たとえ、日本の税金を変えても、それは 荒唐無稽の話と言えます。そもそも、日本では長い歴史のある軽自動車と、その税金について、 国内ではあまり話題にもなっていないことが、なぜ、アメリカは日本の軽自動車税金を問題視しているのでしょうか。

  それは、アメリカ車が日本で「売れない理由」の一つに、普通車より安い軽自動車の税金があるからと考えているからです。つまり、TPP交渉を契機に軽自動車の税金を撤廃すれば「アメリカ車も売れるだろう」と考えていると思われます。はたして、そうでしょうか。 日本自動車販売協会連合会(自販連)サイトの2013年7月の新車販売台数概況発表(実績表)を見ますと、「普通乗用車=119,569 小型乗用車=130,330 小計=249,899 (他は省略)」と掲載されています。

アメリカ車:リンカーン(タウン仕様車)
ロサンゼルスのフリーウェイ (片側6車線に
プラス側道の4車線、合計片側10車線)

 この実績表は、いくら軽自動車の税金や諸経費が安くても、普通車対比でビックリするほど大きな販売台数の差はないと言うことです。もしも、アメリカ車を日本国内で売るならば日本車に負けない位のいい普通車や、 ユーザーが望んでいるような車を売れば、先の新車販売台数の中に今でも高率でアメリカ車の比率が増える可能性があるともいえます。じゃあ、それが何故売れていないのでしょうか。

 アメリカ車の製造・販売方法には日本車と太刀打ちできない根本的な問題があります。それは、私の「カリフォルニア旅行記(目次)」、「アメリカあれこれの 「アメリカ車は、なぜ本国でも売れないのか?」ページに書いています。このリンク先ページから、アメリカ在住で今まで既に車を16台も乗り換えた日本人ハイヤー運転手さんから聞いた話の一端を引用して書きますと、次の<>内の通りです。

 <アメリカ車が本国でも売れず、その替わり外国車が 売れる原因として「日本車やヨーロッパ車が排気量や性能がいいと言うこともが当然あるが、根本原因はアフターサービスが 悪いことだ。アメリカ車は売ったら終わりみたいな売り方だ。その点、外国車(日本車やヨーロッパ車など)は義務付けられているパーツの補給含めてきっちり守っているから購入後も安心して乗れるからだと思う」との話がありました>

 あと、この運転手さんの話しの補足を書きますと、アメリカの車販売は「高級車・大型車中心、つまり、儲け幅の大きいのだけを売るやり方である。小型車販売やメンテナンスは利益幅が小さいのでしたくないとの考えだ」と言うのです。このことは、ロサンゼルスで聞いたアメリカ車の状況ですが、日本国内でも似たようなこと、あるいはそれ以上に悪いことがあるのではないでしょうか。私も何十年か前に、「修理用のパーツ待ちで何月間も走行できない。もう二度とアメリカ車には乗りたくない」などと聞いたことがありました。現在も、この状況は、そう変わっていないのではないでしょうか。

  あと、蛇足的ながら、アメリカ車は日本仕様のため右ハンドルの車さえ製造・販売していないようです。その点、 日本は(ヨーロッパやアジア諸国の車は当然のごとく)アメリカの道路に対応して左ハンドル車も製造・販売しているのです。また、1980年代に日米の自動車摩擦問題(日本車タタキなど)が発生した時、アメリカは日本に対し何を言っていたか思い出す必要もあります。やや正確性に欠けますが、大要「日本車の輸入増大によって打撃を受けている。対等なことをするために輸入関税の撤廃を」、「アメリカでの雇用を守るため日本車を現地で生産すべきだ」などと言っていたはずです。

 私は、日本の製造メーカーに全面的に肩持つつもりはありませんが、この言葉通りを日本はしているではないですか。それに対し、アメリカ車の製造メーカーが日本国内で出来たと聞いたことがありません。アメリカ車のメーカーやアメリカ政府の役人は、日本の幅2mもないような農道、東京や大阪などの市街地の路地裏、それよりは少し広いといっても2.5mあるかないかの一般道(市道など)を走ったことがあるのでしょうか。

 私の田舎の例ですが、山の中に市道があっても対向車と離合も出来ないような道路状況は、本当にアメリカ人は知っているのでしょうか。TPP交渉とか貿易問題、他国の税金に対してウンヌンカンヌン言う前に市場調査などは、アメリカはしないのでしょうか。他国の状況を知るのは、商売のイロハではないでしょうか。この国は、自分の都合通りいくなら、他国がどうなろうと知ったこととではないと言う考え方が根底にあるから、先のようなことが言えるのでしょう。

 私はアメリカの政府や車製造メーカーの人に言いたいです。「自国の広い道路ばかり走らず、たまには日本に来て幅2mあるかないかの農道、市道、町の路地裏を走行してみて、それでも大型高級車を買ってくれと言いますか?」、「日本で本当にアメリカ車を売りたいならば、日本人が好む自動車を作って、日本の狭い道路でも走れる、そしてメンテナンスもしっかりしたらどうですか」と。このようなことを最低限するのは、商売の初歩の初歩ではないでしょうか。

 全くの蛇足ですが、私は車ではないですがパソコン関係ならばアメリカ製品を今まで3台は購入したと思います、それ以外の商品も、いくつかあります。いくら貧乏人でも便利で使いやすい製品ならばアメリカ製でも買うのです。要は、車でもパソコンでも別製品でも、購入動機の決め手はユーザーが欲しくなるようなモノがあるか、ないかではないでしょうか。

私の関係ホームページ
 アメリカ車は、なぜ本国でも売れないのか?
 車大国のアメリカから見えるもの

 あと、今回の新聞報道を見て改めて思うこともありました。アメリカ式のTPP交渉にも問題ありますが、それに迎合して、まるで日本を売り渡すようなことをしている今の政府・与党は、もっと重大かつ深刻な問題があるといえます。TPP交渉について一般には、農業分野だけではなく医療、金融、保険その他も破壊し、その儲けはアメリカが取り上げるやり方とも言われています。

 今回のように純然たる日本国内の軽自動車税金についても、色々と口出してくるアメリカのやり方、それに迎合する今の政府・与党のやり方は、ある面本当に良く分かる事柄といえます。日本国民や国内メーカーよりも、まるで「アメリカ様が一番大事」といわんばかりの姿が、くっきりと浮かび上がっているよう見えます。このTPP交渉は、今のままでは「百年の禍根」では済まない、より危機的な状況になってくように気がします。


(記:2013年9月2日)

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