福田さんの写真館
|
コップを洗っている最中である。 ディーゼル音に合わせて、鋼鉄のすれる嫌な音が聞こえてやがて地面が揺れだした。 直感できた。 受け入れない自分が心の中で「まさか」と叫んだ。無意識と意識の間を行き来する自分。やがて僕は事の意味をのみ込んで我に返った「戦車だ」「戦車だ!」。 立ち竦んだ。 恐怖と至福が同時に込み上げた瞬間だった。「戦場を見たい」願いが叶うことと、死への恐怖が同じくらい胸を圧迫した。 交差点の脇にあるコーヒーショップの目の前で戦車は停止し、大砲だけで見渡している。その大砲が僕を睨むように制止した。わずか五秒ほどの時間が圧迫した胸をさらに圧迫させた。 初めて戦車に遭遇した。 シャッターは切れなかった。 約一ヶ間、テロ犯捜索という名目の占領が続くナブルスで生活することにした。家商店はしらみつぶしに家宅捜査され、閉ざされた鉄扉をダイナマイトで爆破する音が街の何箇所かで響いていた。抵抗する者にはいや応なし銃が向けられた。 飯を調達するにも商店はクローズしたまま、残った食料をパレスチナ人と分け合って喰う日が続いた。西洋化の進むエルサレムや議長府のあるラマラに比べ、原理主義組織の影響が強いナブルスの人々は、よりイスラムらしく旅人の僕に優しくしてくれた。 コーヒーショップの店主アムラハビは僕のことを孫のように可愛がってくれた。自宅に招き家族を紹介したり、娘の嫁ぎ先にもお邪魔した。安く泊まれるようキャンプ内の民家を借り上げてくれた。朝昼の食事を提供してくれた。僕にチョッカイを出す子どもを追っ払ってくれた。 町のどこかで銃声が聞こえると一目散に飛び出していく僕を見てアムラハビはどう感じただろうか。「シーカッ(僕のこと)」と言ってウインクしながら送り出す彼の姿を思い出す。アルバイトのお礼にとシューズを貰った。 (掲載日:2005年11月17日、文責:福田雅宏さん) |