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聞いた言葉・第22回目、機械(ハイテク)もすばらしいが、人間も素晴らしい

機械(ハイテク)もすばらしいが、人間も素晴らしい

 この言葉は、私が大阪空港で働いていた時に、B747(ジャンボ機)の機長(キャプティン)から聞きました。この言葉の背景には、あるいくつかの航空機事故があります。航空機事故の原因は、単純にひとつとかではなく、多くの要因があると空港で働いていた当時、私は聞きました。ですから、単純に一つとか二つの事柄でまとめきれるとは思いませんし、そのような事故そのものについて、今回このページで述べる主旨でもありませんので、あらかじめご了承願います。

 その前に、世界を飛んでいる航空機は、数えれば何百種類あるいは何千種類あるかもしれません。そのような航空機は、過去幾多の尊い人身事故も含め、多くの教訓も取り入れられ製造されている機種もあります。その中で、「事故原因のほとんどがヒューマンエラー(人為的ミス)、だから、いざと言う時には、人間ではなく機械の操作が優先する」みたいな設計思想で造られた機種もありました。(ほとんどの機種は、何かあった場合の回避操作などは、乗員によって操作されます)

 ある事故の発生当時、ある機種は、事故直前に乗員の意図あるいは自らの操作と違う方法を機体側がおこなってしまって、結果として、適切な回避操作ができないまま、事故につながりました。(ただし、このことのみが事故原因でないことは先に述べた通りです)

 この事故の発生以前からも(その後はさらに)「はたして、人間よりも機械・ハイテク優先の機体設計思想は、正しいのか」と言う議論が、私の耳にも入ってきていました。また、「ハイテク技術は、何でも人間の代わりをするのか」との話しもありました。

 昔の飛行機の乗員編成は、機長、副操縦士、航空機関士、ナビゲーター、通信士などの5名編成でした。それが、技術(機械)の発展の名のもと、(私は、技術の発展は否定しませんが、実はコスト削減=乗員数削減が主ではなかったのかなあと思います)3名(機長、副操縦士、航空機関士)となり、今は2名(機長、副操縦士)編成機になってきています。

 その中でも、航空機関士の削減については、今なお、議論のあるところです。分りやすい例を出すと、燃料やエンジンオイル系などの計器は、航空機関士がいれば、常にモニターされています。しかし、2名編成機なら、誰かがチェックしないと表示されない仕組みとなっています。(パソコンのハードディスクのメモリーをチェックするのと同じようなものです) なぜそうなるのかと言うと、従来副操縦士の後部座席にあったパネルで航空機関士が常時監視していたたくさんの計器類を全て前部座席のモニター画面で表示させるシステムになったからです。

 つまり、もしも万が一何もチェックしないければ、残量が少ないなど何か問題が起きない限り、機体側から乗員へは知らせてくれないのです。私もこの件で当時、「常時モニターの必要はないのでは」とか、あるいは逆に「警報が出てから、対応していては遅すぎる」などの議論も聞いたことがありました。

 このようなことを書けば様々な意見を述べられる方もおられると思います。ただし、私は、技術の進歩やハイテクについて、決して否定しているのではありません。むしろ、現在自ら入力している最新技術のパソコン含めて、その発展に目を見張っています。ずっと以前のことですが、航空機についても客室関係で思い出すことがあります。

 たとえば、分りやすいやすいところで、どの機種でも同じように各座席の頭上には、読書灯がついています。これは従来の機種なら、整備の時、故障して点灯しない所を目視で全座席点検していました。しかし、ハイテク機はモニターの画面ひとつで、どこが故障しているか、見つけることも可能でした。このように便利な機能は、他にも随所にありました。

 ただ、機械やハイテクが人間の能力を越えて、全て万能かと言うと、それも違うと思います。世界での例ですが、火山噴火の煙に航空機が巻き込まれ、全エンジン停止と言う非常事態が発生したことが過去何回かありました。このような場合は、いくらハイテクが進んでも機体側が自ら回避操作や対応策をおこなうようにはなっていません。

 これに遭遇した乗員は、機体がグライダーみたいな状態ながらも、刻々と迫る危険に向けて、考えられるありとあらゆる方法(それこそ全知全能)を振り絞って、何回も機体安定やエンジン再始動操作をやり直して、結果事なきを得たのでした。(このような例はいくつもありますが、省略いたします) 

 こんなことは、機械だけでは到底出来ない、人間だからできる判断と操作だと思います。。また、このようなことは航空だけではなく、人は、例えば火災など緊急時に、通常考えられないような方法や並外れた能力を発揮して、逃げ延びたなどの報道もたまに見ます。

 最初に書きましたが,、「機械(ハイテク)もすばらしいが、人間も素晴らしい」と言われたキャプティンは、その直後「だから、お互いのいいところを併せて飛びたいねえ」とも話しておられました。このような謙虚な姿勢が、あらゆる分野で貫かれていれば、もっといい航空産業になっているのになあと、私は、当時からずっと思っていました。

 また、今私は住んでいる所や働く分野も違いますが、インターネットやパソコンなどを操作している関係もあり、場面によっては、改めてこの言葉とその意味をよく思い出すことがあります。(記:2003年1月21日)
 

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