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聞いた言葉・第59回目、新聞を裏から見る

 
新聞を裏から見る

 この言葉を見たのは、私の高校生時代(1975年頃)戦記ものを扱った本の中に書いてありました。念のため、この「新聞を裏から見る」と言う表現は額面通りにとらえないで下さらないでしょうか。戦争中のことですから当時のメディアと言えば新聞、ラジオ、本だったと思いますので、この「新聞」の中にはそれらも含まれていると言うことです。

 前段の話がさらに長くなりますが、この戦記ものの本には、日清、日露、第一次大戦、第二次大戦などの話が約10冊くらいに書かれてありました。(残念ながら本の名前や出版社名など忘れてしまいました)その本の中には、その当時の政治を巡る情勢、各地での戦闘内容、その時々の兵器なども書いてあり、また、”情報戦”についての話も出ていました。

 さらに話が脱線しますが、今からおよそ2500年前に書かれた「孫子の兵法」には、「敵を知り己を知らば百戦危うからず」と言う有名な一説があります。これは読んで字のごとくで、このことをせずに、あるいは無視して合戦した場合、たとえ大兵力を持ってしても負ける場合もありうることを諭しています。つまり、大昔から”情報戦”は、非常に大事だと説いているのです。

 先ほどの本の中にも、この”情報戦”について書かれてあり、読み進むうちに「おやっ」と思う記述があったのです。それは、「満州」(現在の中国東北部)を巡る情勢のとらえて方で、当時の日本軍の動きを知る上で、相手国側(実際は少し違うのですがこれから表現を分かりやすくするため、秘密諜報員=スパイとも書きます)は、ずっと、「満州」及びその周辺の多くの物資や衣食住の動向・値段なども調査していたそうです。

 これらは何も映画007のジェームス・ボンド張りのスパイ活動までしなくても、極々普通の(公然と出されている)新聞などの印刷物で、その動向(物の動き、値段など)は把握できます。これらの流通をずっと継続して調査していれば、軍が直接動き出す前に、その変化が現れるそうです。

 つまり、戦闘は何も兵隊と兵器(弾薬含む)だけで出来るものではなく、必ず一般に”補給”と言われている食料、燃料は絶対不可欠で、さらに様々な物資や住む場所まで必要です。そのことがちゃんと出来ない限り線香花火的な戦闘はできても長期戦は破綻をきたすといわれています。

 当時は今のように大量に運べる輸送機もなかったでしょうから、なるべく食料や燃料の備蓄は出来るだけ後で輸送の煩雑さをかけずに事前にできるなら準備が必要だったのでしょう。また、その地域を通過せずに支配するとなると、それらに関連する(民間人も含めて)人たちの住居も必要となり、たとえ隠密裏に住宅を偽名で借りたとしても、値段は正直なもので全体に上がったのではないでしょうか。

 そのようなことから、直接戦闘が始まるずっと以前から、その地域や周辺の物資、衣食住などの動向を調査していれば、色々な兆候が現れるので、ほぼ正確に軍の動きが分かったと書いてありました。つまり、秘密でも何でもない公然と発行されている新聞などの”表情報”から戦闘準備体制に進んでいる”裏情報”を知り得たと言うことでした。

 私はこの本を読んでいた時、単純に「なるほど新聞にはそんな見かたもあるんだなあ」と思ったものです。現在の軍事偵察衛星なら地上にある数十センチ四方の物まで、いながらにして情報入手できると言われています。また、衛星からはその国の穀物の作柄あるいは鉱物資源(戦略物資になりうるものですが)なども、把握できると言われています。時代とともに諜報や調査活動は、確かに様変わりしました。

 あと「表に出ている数字」と言えば(これらの話とはゴロッと変わって現代なら)会社経理の粉飾決算など、表に出されている収支報告書、半期ごとの発表数字(中間発表など)をずっと丹念に調べている方は、それなりに分かるそうです。

 この種の調査など戦前と比べ情勢や機器が変わっても、結局は「表に出ている数字や情報」をどう把握して、どう分析するのか、はたまた同じ数字を生かすも殺すも、その人のとらえ方しだいと言う点では当時も現在も変わらないような気が私はします。
 (記:2006年2月5日)

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