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聞いた言葉・第89回目、『売り家と唐様で書く三代目』

 

売り家と唐様で書く三代目

 この言葉は、江戸時代の川柳です。近年も色々な雑誌などで良く使われていますので、私が、いちいち解説するまでもないかもしれませんが、まず、「唐様(からよう)」とは、国語辞典の大辞泉によると「中国風の書体。特に、江戸時代の学者間で流行した、元・明(みん)風の書体。」と書いてあります。このような唐様文字が書けた人は、江戸時代の学者間で流行したと言うことですから、それ相当な教養を身に付けた人(=お金があり、その時間が取れた人)でもあると想像されます。

  あと、今回の言葉の概要は、初代や二代目が必死で築き上げた大店を、その苦労を知らない三代目が放蕩(ほうとう=遊びふけること)もしくは店のやり方を間違えて全ての財産を散在して、結局残ったのは住んでいる家だけになり、それも売りに出すことになってしまった。でも、その間に文字だけは教養で覚えた(初代などは忙しすぎて覚えることも出来なかったと思われるが)洒落た唐様文字で「売り家」と書いていると言う皮肉のこもった内容だと思います。

 古今東西、今で言う大きな企業あるいは政治一家などの初代は、それこそ、辛苦をいとわずに必死で日々努力され、結果大きな業績を残された方ばかりだと思います。また、まわりには当然例えば”番頭”役のたいてい初代に負けず劣らずの努力家であり口もうるさい方がおられたはずです。

 二代目になっても、まだまだ初代やその取り巻きも健在で目が光っていて、たまには叱咤激励も直接ある状況だと思います。それが三代目頃になると代替わりもあり、初代の頃の苦労を知らないばかりか、逆に「おぼっちゃま」とか言われ何不自由なく大きくなった方が多いのだろうと思います。

 自分が家業などを引き継いでも、当初はまだ先代の(人材も含め)財産があるでしょうから何とかなっていると思います。しかし、段々と変なプライドだけは人一倍でしょうから、取り巻きも口うるさ型を排除し、自分にとって都合のいい情報しか寄せない人を重用するので、正確な情報が入らない=的確な判断が出来にくくなり、結果深刻な事態になっていくのが一般的に言われていることです。

 これが民間会社だけでなく国会議員や地方の政治家でもあります。先代の後援会組織がまるで会社組織と同じように次世代に受け継がれ、それまで一般の会社員か公務員をしていた人(=政治的には何の実績もない人)が、急に立候補しても当選できると言うシステムです。

 当然、政治家の二代目、三代目が全てダメだとは言いませんし、初代以上に素晴らしい方もおられるかもしれません。江戸時代の大店の三代目は放蕩したり店のやり方を間違っても最後は唐様の洒落た文字で「売り家」と書いて売ればそれなりに済んだと思います。しかし、現代の政治家が政治を間違えて「日本国を売ります」とか「・・県、・・市を売ります」みたいに結果なってしまったら、そこに暮らしている国民や住民はたまったものではありません。

 今回の言葉は、冒頭に書きました通り江戸時代、大変皮肉のこもった川柳ですが、私は「売り家」と「唐様」が何かに変わっただけで現代でも、この言葉の原因や背景にあるものは、全くそのままではないだろうかと思えてなりません。


(記:2007年12月2日)

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