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今アルザスが面白い2、なぜ活気があり豊かなのか

 『今アルザスが面白い』の2回目は、このアルザス地域の経済状況についてです。ただし、そうは言っても、私はその道の専門家ではないので何か掘り下げて研究したとか、詳細なことが分かったと言うことでは決してありません。

 あくまでも、旅行者として見た雰囲気や少しだけこの地方について聞いたことを書いているだけですので、その点は、あらかじめご了承願います。あと、念のために掲載しています写真は、すでに他のページに使用している物で、文章と直接は関係ありません。

 まず、アルザス地方を述べる前に、資本主義経済である以上、日本でもフランスを含むヨーロッパでも、好不況を繰り返しているのは言うまでもありません。日本の場合、あのバブル以降“戦後最大の大不況”とか“平成大不況”とか呼ばれ、現在も長く続いています。

 世界第二位の経済大国でありながら、一般の国民・サラリーマンレベルの生活状況は、“経済大国”とは程遠いのではないでしょうか。そればかりか、欧州の人には全く理解されない、あるいは通じる言語がないため日本語がそのまま外国語になった「Karoshi=過労死」、欧州各国では犯罪行為とまで言われている「サービス残業」の横行などでも分かる通り働き通しの現役サラリーマン。

 それでも、やっとなんとか定年を迎えたと思っても、今春(2004年)の年金制度大改悪の例でも分かる通り、定年になればなったで生活不安は増すばかりの日本の状況です。(サラリーマンだけではなく、中小零細企業も似たような状況だと思います)

 フランス(欧州各国含め)はどうかと言うと、同じ経済体制である以上、不況や失業その他の問題は、過去も起こっていますし、現在だって全部解決された訳ではありません。しかし、なぜか、日本ほどの深刻さ、あるいは解決の見通しさえ見出せない袋小路状態が感じられず、むしろ、地道に歩んでいる雰囲気に見えます。

 ここで、大変たいへん大雑把ですが、次の生活面に直結しているフランスの制度などをご覧下さい。

医療 = 原則無料(外国人にも適用)
教育 = 原則無料(外国人にも適用)
休暇 = 約1ヶ月間のバカンスと年休なども、ほぼ完全取得
失業 = 最長60箇月間雇用保険を受給でき、その手当ても失職前と近い金額
年金 = 種類によって違うが、満足度はほぼ8割とのこと

 数字の取り方や保険料・税収方法の違いなどを指摘される方がおられかもしれませんが、それはその国の歴史の違いもありますし、当然だと思います。しかし、たとえ大変大雑把な上表としても、結果として分かるのは、日本の方がフランスより国民生活に直結している医療、教育、年金、失業などで負担が大きく(さらに改悪されようとしている)、劣っていると言うまぎれもない現実です。

 さらに、上表に書いていませんが、フランスの年間労働時間などを対比すれば日本の状況は、目を覆いたくなるようなものです。また、蛇足ではありますが、私は20年前のフランス旅行時、日本では良くある学資(教育)保険、医療保険が、「理解できない」とのことでした。

 つまり、「そんなのは無料が当然だ。なぜ別に保険かけたり貯金するのか」という感覚だそうでした。(日本の現状は、20年前よりさらに悪くなっているのは言うまでもありません)

 ただ、その国の歴史や立地条件その他、経済状況を見る上で豆腐切ったように一概に優劣の度合いだけでモノを見られないのも確かです。しかし、何かの商品を作る生産手段や物の売り買いなどは、日仏とも天と地ほど違うはずはないと思います。

 例えば車を作り宣伝して営業マンが売ったと仮定して、フランスは日本の10分の1のコストで出来たと言うまるで手品みたいなことはないのではないでしょうか。やはり、物の売り買いそのもの経済活動それ自体は、どの国も似たような状況だろうと思います。

 そのように似た状況がありながら、なぜ日本はフランスや欧州各国のようにできないのか。世界第二位の経済大国、さらにはフランスをはるかにしのぐ予算規模がありながら、なぜ深刻な経済状況から脱皮できないのか。

 結局は、政治そのもの、お金の使われ方に決定的な違いがあり、そのことが何十年間も改善されないのでさらに悪化すると言う悪循環だろうと思います。

 以上、今まで述べてきたフランス国全体の制度などを抜きにしては、アルザス地域の活発な経済状況の理解は進まないとも考えました。

 アルザス地域の経済状況を見る上で、この地域は国民総生産や一人当たりの輸出高が、フランスでトップクラスの地域だそうです。また、私が、アルザス地域で見て驚いたのは、世界的に有名な日系企業の看板や工場が多かったことです。これは何も日系企業だけでなく、他国系の企業も多く進出していました。ちなみに、この地域では仏系以外の外国系企業で働いている就業人口が、約4割くらいのようです。

 私が思うに、単純に生産コストだけなら、発展途上国の安い労働力に各企業は目をつけ、そこばかりに進出するはずです。しかし、フランス国内の(当然、発展途上国よりもずっと高い)所得水準(就業条件)と知りつつ、このアルザス地方に各国企業が進出するにはコストだけではない理由があると思います。

 まずは、治安もいいのではないでしょうか。昔からの「道の町」としての栄えた歴史ある交易地域、ヨーロッパのほぼ真ん中と言う地の利を利用したトラック輸送などの利便さ、この地域の方々の働き者で勤勉さなど、様々な要因があるからこそ外国系企業の進出度合いが高いのではないでしょうか。

 あと、外国と言えば、このストラスブールは地方の一都市ながら例えばヨーロッパ連合(欧州連合)の議会や欧州人権委員会などもあるヨーロッパ有数の国際都市です。

 また、毎年留学生をたくさん迎え入れている学園都市でもあります。古くはゲーテやパスツールも学んだ大学もあります。このようなことは、当然人的交流や人の往来も増える要素があり、そのこと自体色んな意味で活性化をもたらしていることでしょう。

 さらにこの街には、(日本なら大都市でないと見られないような)国立劇場、オペラ座はじめ各種の美術館・博物館、その他の劇場や文化施設が多数あり、芸術・文化都市でもあるのです。また、その養成所や教育機関もありました。このようなことが出来るのは、行政側の相当な予算をともなうでしょう。しかし、建設したら終わりという一過性のものではないですから、経済的に考えても二次三次あるいは永続的な波及効果もあると思われました。

 市街地の状況について、ストラスブールしか見れませんでしたが、商店、飲食店などは(中には、デパートなどもありましたが)そのほとんどが小規模経営でした。店の大きさなどは、むしろ現在私の住んでいる大村市の商店の方が大きいと思えました。

 また、6月の平日しか見ていませんが、街の通りも商店もお客さんの流れは良かったです。さらに、この活況を見込んで、この地に進出を考えている有名ブティックが多いとも聞きました。実際すでに進出している有名店もありました。

 あと、小規模経営の店だけかと言うと、そうではなく旧市街地から少し出たところには大規模のショッピングモールやスーパーも見ました。詳細は分かりませんが、私の見た目、大規模・小規模経営店もうまく共存しているのかなあと思いました。

 さらに街の通りを見て、私が意外と思ったのが、お孫さんの手を引いたお年寄りや年配のご夫婦連れの方が多かったことです。それもそのはずで、市街地は原則車は乗り入れ禁止で、その替りに車椅子でも直接乗れるような低床式のトラムが走行しているのです。

 毎日が、”歩行者天国”みたいなものですから、年配の方でも安心して歩ける通りと街なのです。お年寄りや身障者に優しい街づくりは、何もその方々だけのためではなく、結局のところ誰にでも便利であり、行きやすい、歩きやすい、買いやすい街でもあるのです。

 次に、リボーヴィレ村の近くやリクヴィル村にあるワイナリー見学と聞いた話しです。この付近の葡萄畑は、私の住んでいる町がスッポリ入るほどの規模ですが、それでも基本は家族経営だと言うことです。(ただし、収穫時は大量のアルバイトなども導入されているでしょう)

 しかも、化学肥料など使用せず400年も前から自然の恵みそのままの栽培方法とのことです。ワイナリーのパンフレットには、(1610年から現在まで)「何の秘訣もない」とまで書いてあります。ワインラベルには、容量やアルコール度数だけでなく、生産年、品種、収穫地、ワイナリー名などこと細かく表示されています。それは、まるでそこのワイナリーの品質や誇りさえ感じます。

 どこかの国でおこなわれている生産地偽装や製法上は「米とトウモロコシ入りビール」なのに、表示だけ見たら(現在の法律上は問われないのですが)まるで本物の「ビール」のごとくして売る、本来の品質よりも利潤追求第一主義が大事、派手なコマーシャルだけが肝心な売り方と全然違うのです。ワインや商品の品質は、経済問題と直結していないように思われますが、私は大事なことだと思いました。

 あと、アルザス地域の各村の観光客状況については、リクヴィル村を例に挙げて書きます。ここは、村の人口は、約1200人ですが、ここを訪れる観光客は毎日平日でも数千人、祭りなどのシーズンには、人口の何倍にもなると聞きました。

 まわり葡萄畑ばかりですから、美味しいワインや料理も魅力でしょう。(地下埋設のため)空には電柱も電線も見当たらず、機械で動いているものはミニトレインだけで、あとは徒歩=人が主役の村です。

 また、村全体奇跡的に戦災にあわず絵本に描かれているような中世の城郭村がそのまま存在している魅力に惹かれて来られる観光客も多いと思います。

 日本のように何か大きな「上物」、「箱物」を作って人を呼ぶやり方ではないのです。(日本であまたある施設で、「上物」「箱物」で成功しているのは、東京ディズニーランドだけではないでしょうか。また、大きいショッピングモールみたいな形式で成功しているように見えていても、そのまわりの商店街や地域全体まで果たして活況化になっているのでしょうか)

 リクヴィル村のように昔のまま、あるがまま、自然のままのやり方、そこに、人は嘘偽りのない素朴さと安心感を覚え、またこの村に行ってみたいなあと思われるのではないでしょうか。これは単にこのリクヴィル村だけではなく、アルザス地域全体の村や市にも共通していることだと言えます。


 まとめに入る前におさらいですが、、まず、最初に生活に密着しているフランス全体の制度や予算との関係からお金の使われ方などを書きました。

 色々なベースが全く違うことは確かですが、国や地方の予算=お金の使われ方の違いによって、国民や勤労者レベルで考えるなら、日本では医療・教育費など国民にとって大きい負担になっている分が、ここフランスでは消費にまわっていると思えます。

 景気を左右する大きな要因は、一般国民の消費購買力で国内消費の約6割から7割くらいを占めているとも言われています。このことは景気動向を見る上で、本当に決定的に重要な役割を果たしていると思われます。

 日本のサラリーマンのように、収入の伸び悩みや低下に加え、医療・教育費・社会保険料などの高負担が重なれば、一時期は別としても毎年通年を通して、消費にお金をまわすでしょうか。

 全てのベースの問題として経済政策がありますが、日本のように大手ゼネコン、大銀行や大企業ばかりを優遇する、あるいは全く無駄な公共事業に何百億円・何千億円も出すというお金の使われ方をし、片や国民や中小零細企業には高負担を強いておいて、「何とか、景気だけは回復を」と言う虫のいいやり方で、良くなるはずがないと言うのがこの数十年来の景気対策の答えでしょう。

 あと、上記のフランス全体のベースの上に立って、ストラスブールやアルザスの状況を書きました。アルザス地域全体で、外国系企業の進出が多い、生産高も輸出高もこの地域は高いなどの特徴点もあります。ストラスブール市に代表される国際都市、芸術・文化都市としての経済波及効果も大きいと思われます。

 さらに、大規模、小規模商店の棲み分けや共存、トラムなどに見られる人中心の街づくりもあります。また、ストラスブール旧市街地区の世界遺産やアルザス地域の古くからある村々など、古いものを、自然なものを大事にし、しかもそれをそっくりそのまま観光資源にしてフランス有数の観光客を集めている地域状況もあります。

 アルザス地域のワイナリーなどの農家は、畑の規模は大きいけれど基本は家族経営であること、昔ながらの自然農法にこだわり、厳格に品質や味を追求する姿勢が結局、消費者の信頼を勝ち得ていることなどを書きました。

 今回のテーマ「なぜ、アルザス地域は活気があり豊かなのか」の私なりの答えは、結局、根底に『人に優しい』と言うことです。人に優しくなければ、その国として、医療・教育・失業・年金などの制度は良くしないし、逆に「無駄なことと」して改悪するばかりでしょう。

 人に優しくなければ、街づくりや家族・小規模経営の商店・飲食店なども大切にされないでしょう。人に優しくなければ、家族経営の農家があれだけ自然農法や品質にこだわることもないでしょう。(国の農業政策も日本と違って、根底にこの家族経営を支援するものがあるはずです)

 日本のように大企業には優しくて国民・中小零細企業には厳しい政策、あるいは何十億何百億かけて「上物」つくりの活性化策をやったとしても結局は逆効果はあっても、本来の経済・地域活性化に役立つことはないでしょう。私が見たフランスやアルザス地域のことは、何かびっくりするような経済政策やお金の使われ方をしていると思いません。

 つい何十年か前までは、この日本でも内容やレベルは別としても似たようなことが行われていたはずです。その後、国力や実態経済を無視して、異常なバブルや大型公共事業に走った結果の破綻が目の前にあるのと、その治療のための処方箋(経済政策)が全く従来型で変わらず、より一層悪循環を招いていると思うのです。

 繰り返しになりますが、日仏の対比だけで考えても、経済力も予算規模も就業人口も日本が上回っています。下回っているのは、悪循環と深刻化を重ねている経済政策だけだろうと思います。同じ人間のすることで、フランスで出来いてなぜこの日本で出来ないのか、アルザス地域を旅行して私はより一層そう思いました。

 ここまで述べてこのように書くのは何ですが、フランスだって最近の年金制度一部改悪などあり、この件はテレビでも報道していました。その他の諸問題含めて、いいことばかりではないと思います。しかし、そのことを差し引いても、日本の水準よりもはるかに充実した制度や施策があり、その結果、国民、家族経営、中小企業を守る役割を果たしていることには変わりないように思います。

私の関係ホームページ
フランスあれこれ
経国済民
ほんものの酒を!

 最後に、フランスの一地域と言えばそれまでですが、私は、アルザス地方の活気ある経済状況について、今後も見ておく必要のある地域だと思いました。(掲載日:2004年8月20日)


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