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一人歩きのパリ

 14時10分、オルセー美術館に並ぶが、観客が一杯であきらめた。14時30分、池田市石橋のフランス料理店のシェフに頼まれていたフォーク立てを買いに『シェクレ』と言う店を一人で探しに出た。なかなか分かりにくかった。店の所在地になっているバック通りを行ったり来たり、脇道に入ったり、さらにはサンジェルマン大通りまで行きそこにあるメトロ「バック通り駅」まで行くが分からなかった。

 あきらめて、もう1回オルセー美術館前の通りの外れからルーブルに向かおうとしたところ、門構えの小さい店が数店あり、その一つに『シェクレ』があった。「何だこんな近くにあったのか。バック通りはこの道までつながっていたのか」と再度地図を見るとこの通りはサンジェルマン大通りからセーヌ川に架かるロワイヤル橋の手前まで通っていた。10分もかからない所をぐるぐると30分以上歩いていたことになる。

 気を取り直して店内の入ると白を基調とした内装は奇麗で奥行きもあった。ルイ・フィガロ・ジャパン誌のコピーを見せて、「ボンジュール、私の友人のフランス料理のフェフからこの鼓笛隊のフォーク立てを頼まれてきた。ありますか?」と英語、日本語取り混ぜ汗が出るくらい一生懸命話した。

 店員のスザンヌ・ゴードン(熟年の女性)さんは時に鼻歌交じりに親切で丁寧に応えてくれた。実際テーブルに並べられた太鼓、笛等を持つ鼓笛隊のフォークセットは4個で1セットだった。落ち着いた銀色の製品はこれはいいと思った。

 シェフからのオーダーは8個だったので1セット730フランだから2セットで1460フラン(約3万円)と思っていた。しかし、メモ用紙に書かれた数字ははるか高い5840フラン(約11万7千円)だった。「なぜだろう、税金の関係かな?」と数回聞くがどうも違うようだった。ゴードンさんがさらに丁寧に書いてくれた数字は1本730フランだった。注文は8本だったのでとても勘定に合う訳けなく、結局買えなかった。

 残念と言う表情をしていると「そのコピーは何の本か?」と聞くので、「ルイ・フィガロ・ジャパン誌だ」と言うと「フィガロ誌が間違っている」と言われた。次に私の予算に見合うものをと思ってか広葉樹の葉っぱサイズのナイフ置きを出してくれた。「これならその予算内でいけますよ」と言う進め方だったが、「シェフのオーダーと違うから」と言わざるを得なかった。高いはずでそれは全て銀でしかも手作りの製品だったのだ。「アイムソーリー、すみません」と何回も繰り返した。

 でも、「来年1月か2月にシェフが来店するだろう」とメモに書くと、奇麗なショッピングガイドと名刺をもらった。外は零下に近いのに汗を拭いていた。 16時50分再びオルセー美術館に行ってみたがは相変らず一杯だったので、ルーブル美術館に向かった。ここも並んでいてガラスのピラミッド下の売店で各種の絵葉書とナポレオンのポスターを買った。

 ゆっくり歩いて18時30分にホテルに着いた。この間まで約4時間強たった一人で町中を歩いたことになった。一人歩きのパリにちょっと自信がついた。(1994年1月1日記す)

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