(2004年6月19日) 私は、このアルザス・ワイン街道巡りで、楽しみにしていたことがありました。それは、ワイナリー(Winery=ワイン醸造所)<注1>の見学と試飲でした。
<注1:ここで表記の件ですが、フランスでは、一般的にワイン醸造所のことを「ドメーヌDomaine」とか「カーブ(蔵)=Caves」とか呼ばれていますが、このページは、全てワイナリーで表しています>
その前に、私は日本国内47都道府県まわりましたが、実は最後に行ったのが山梨県でした。しかも、このとき甲府市内にあるワイナリーを見学し、試飲もさせてもらいました。
この時見たワイン樽の多さにちょっと驚きましたが、甲府のワイナリーと、アルザスワインのワイナリーと比べて、どうなんだろうと想像しながらバスに乗っていました。 リボーヴィレを後にした観光バスは、あいにくの曇り空の下、ツェレンベルク(Zellenberg)村の広い葡萄畑と集落が点在する道を進んで行きました。
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葡萄駕篭をかついだ農夫の木彫り
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リボーヴィレから10数分もしない11時15分頃に、そのワイナリーの入口に到着して降りかけていると、別のバスも着きました。結局、バス2台分のお客さんで、このワイナリーの見学が始まりました。
まずは、私たち4人グループともう一人の方に、「あなた達、日本人?」と聞いて、日本語パンフレット(題名『横浜ワインコレクション』)を渡されました。
このパンフレットは、なかなか良く出来ていてアルザス地域のこと、このワイナリーの歴史や現在の状況、葡萄の品種のことなど、詳細に書いてありました。私は、これをさらっと見て、しめしめ、これで分からないフランス語説明を聞かなくても、分かったふりできるなあと最初は思っていました。
ここのワイナリーは、ジャン・ベッケー(JEAN BECKER)さんと言い、1610年にはこの地に住んで葡萄を栽培していたというアルザス地域でも最も古い家柄のひとつでした。現在は、姉弟3人の家族経営で、私たちの前で説明されているマルティーヌさんが、ここの長女で営業担当、なんと7カ国語を話すスーパーウーマンでした。
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試飲コーナー兼ショップ
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庭から階段で少し上がった醸造所入口付近の内側にポスターが貼ってあり、まずはここで栽培されている葡萄品種の説明からでした。ドイツ語、フランス語、日本語と立て板に水流すような感じで、リースリング(Riesling)、トケイ・ピノ・グリ(Tokay Pinot Gris)、ゲヴルツトラミネール(Gewurztraminer)など、6〜8種類を説明されていました。
また、台車に乗った箱を見ながら、ここで醸造されたワインの8割は国内消費、残り2割がアメリカや日本向け輸出とのことでした。次に、瓶にラベルを貼る機械の説明が続き、その後地下貯蔵庫に降りることにしました。
地上にいる時は、ほぼ外と同じでしたから感じなかったのですが、地下への階段を一歩いっぽ降りるたびにワインの香気が強く漂ってきました。 ワイン樽も種類が大小ありましたが、中には人の背丈以上の大きさもありました。
それらいずれもが幾世代にわたって使われているような年代物ばかりで、黒光りしていました。また、私たちが説明を受けた樽の真ん中には、葡萄駕篭を担いだ農夫姿の木製彫刻がおかれていました。
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ゲヴェルツトラミネール
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樽の前に人数が揃う間に私が日本語で「写真撮っていいですか?」とたずねると「OK、オーケーよ」答え、逆にフランス語で「空気が乾いたことを日本語で何と言うの?」と聞くので、姪が「乾燥、カンソウ」と応えていました。このマルティーヌさん、単に一方的な説明のみの日本語ではなく、ちゃんと受け答えしているのです。
このようなことから、もらった日本語パンフレットは後で見るとしても、日本語までも自在に話すスーパーウーマンの説明に聞き入るようなりました。この説明の中で多くは語られなかったのですが、「ワインは、自然につくる」みたいなことを言われたのが印象に残りました。つまり、(私の解釈ですみませんが)葡萄の栽培から醸造、熟成まで自然やブドウ本来の力でつくると言うことだろうと思いました。
このようなことを聞くと、日本で一部を除き多く出回っている「ビール」(正確には、「米とトウモロコシ入りビール」や「合成イミテーションのウィスキー」などを製造し、それをあたかも本来の『ビール』、『ウィスキー』と同じがごとく表示している大手酒造メーカーの製品を思い浮かべてしまいました。(詳しくは、「聞いた言葉」シリーズの『
ほんものの酒を!』のページをご覧下さい)
私も、元々農家の息子ですから自然相手の厳しさはそれなりに分かります。だからこそ、この国でワインラベルに容量やアルコール度数だけでなく、品種、生産年、生産地、醸造所などこと細かく表示し、自信を持って世に送り出されておられるのだろうなあと思います。それに比べ、どこかの国々は、中身や品質表示よりもコマーシャルの力のみで販売をしているのかと思うと・・・・・・です。
ワイナリーの見学も終わり、壁一面に緑の葉が生い茂る試飲コーナー兼ショップの建物に移動しました。いよいよ、楽しみにしていた時間です。まず、一本目は、アルザスワインの代表格リースリング(Riesling)でした。やや辛口ながら、すっきりとした喉越しの良さ、さらにもう一杯飲んでみたいと思わせるワインで、日本食なら天ぷらや煮物、アルザス料理ならタルト・フランベなどに合いそうでした。
2本目は、ゲヴェルツトラミネール(Gewurztraminer)です。マルティーヌさんは、このワイン説明時「太陽を感じるワインです」と言われました。ふくいくたる花の香りと果実の味わいが、口いっぱいに広がり、そして残ります。
まさしくアルザスの太陽の恵みを感じるもので、冒頭の説明になるほどと納得しました。このワイン自体美味しいので何にもなくても何杯もいけそうな気がしました。料理ならこの香りとフルーティーさに負けない、例えば和食ならスキ焼きとか焼き鳥など、アルザス料理なら肉と野菜などをワインで煮込んだベックオフ(Baeckeoffe)など合うのではないかなあと思いました。
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ゲヴェルツトラミネールのラベル
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私たちは、「これ、いいねえ」、「フルーティーねえ」と会話が弾んでいきました。また、近くに年配のドイツ人らしき方も座って、このワインに舌鼓打つような感じで飲んでおられました。 ただ、私個人は、この舌を噛みそうなゲヴェルツトラミネールの名前で、この旅行中何回もたずねゆっくり発音もしてみましたが覚えきれず、帰国してやっと何とか言える様になりました。お恥ずかしい限りです。
あと、ワインの名称についてですが、ブルゴーニュやボルドーなどは葡萄畑の名前(有名なところでは「ロマネコンティ」など)で、イタリアなどは商品名(私が良く飲んだ「ソアベ」、「ペガソ」など)のようです。
アルザスワインは、葡萄の品種が全面に表示されています。なぜ、こうなっているのか歴史的なことは、不勉強ながら分からないのですが、栽培品種が良く分かって、これはこれでいいのかなあと思いました。
さて、ワイン購入をどうするか、リースリングとゲヴェルツトラミネール、両方にするか、はたまた値段がやすいリースリングのみにするか、迷いました。結局、説明の通り「アルザスの太陽を感じて飲んで下さい」と言いたいばかりに、ゲヴェルツトラミネール3本(1本9.9ユーロ=1360円、合計約4100円)にしました。
あと、相手するお客さん40人近くでしょうか、次からつぎへと説明、販売しながら、テキパキとこなされるこのマルティーヌさんの仕事ぶりにも感心しました。ワイン3本入りの箱を、いそいそと持ちながらバスの網棚に載せたところ、12時10分、次のリクヴィルに向けて出発しました。(掲載日:2004年7月29日)