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聞いた言葉・第106回目、『何の秘訣もない』

何の秘訣もない

 真夏でなくても、もちろんいいのですが、この暑いシーズン、やや辛みのある白ワインを氷でキリリと、よく冷やして飲むのもいいのではないでしょうか。これから、そのような飲み方に適したアルザスワインのことを書いています。

 今回のこの言葉、既に私の『ストラスブール旅行記』の本文の一部に書いていますが、再度この「何の秘訣もない」と言うところを取り上げたいと思っています。私は、双子の甥・姪のプレゼントで2004年6月フランス、ストラスブールやアルザス地方の小さな村の旅行を楽しみました。

  その旅行時、アルザスワイン街道のリボーヴィレ村やリクヴィール村近くにあるツェレンベルク村(Zellenberg)にあるワイナリー『ジャン・ベッケー(JEAN BECKER)』さんの所に行きました。そこで頂いた日本語パンフレット(題名『横浜ワインコレクション』)の中に、今回の言葉「何の秘訣もない」と言う表現が書いてありました。(右写真のワインは、ここで購入したゲヴルツトラミネール=Gewurztraminerです)

 簡単にどのようなことか、このパンフレットとワイナリー見学時に聞いた説明を補足します。ここのブドウ栽培は、400年も前から自然の恵みそのままの栽培方法で、それ以外の化学肥料その他用いていないとのことです。つまり「1610年から現在まで、何の秘訣もない作り方である」と言う説明でした。

 この言葉、私はあっさり書いていますが、農業される方にとって、実はなかなかのことなのです。私も農家生まれですので、それなりに分かるのですが、例えば稲作でもミカン栽培でも、化学肥料あるいは有機肥料を使っていました。そうすれば田畑の単位当たり収穫量が増えるからです。

 しかし、ここのワイナリーは、その地で生えてきた草、ブドウの木の剪定(せんてい)や落ちた葉っぱなどは、当然肥料にもなるかとは思いますが、それら以外は全く、そこの土壌の持つ力で栽培されていると言うことです。醸造方法も当然古来からのやり方です。ただし、この自然のままの栽培や醸造方法は、何かを用いておこなうやり方と違って手間暇も含めて相当な努力や苦労が要ることを意味しています。

 たとえ、そこの土地の土壌やワイン造りの環境が良かった、あるいは適している所であっても肝心かなめの栽培する人、醸造する人が、どう向き合っているかと言うことです。ここ『ジャン・ベッケー(JEAN BECKER)』さんの姉弟や家族は、約400年の伝統だけではなく、それこそ全員で心血注いだ努力が毎年、毎日あるからこそ、世界に誇れるアルザスワインが出来ているのだと思います。

 それに比べ、このページに書くのもはばかれるような事件が、現在の日本では起こっています。ワインではないかもしれませんが、食品にまつわる生産地偽装、食肉の偽装詰め替え、賞味期限切れ販売、毒餃子、その他、例を挙げたらキリがないほど、毎月や毎日かと思われるくらい報道されています。なぜ、こんなことが起こっているのでしょうか。

 あと、酒類で言えば現在の法律上は問題されませんが、でも製法上は「米とトウモロコシ入りビール」なのに、表示だけ見たらまるで本物の「ビール」のごとく売られています。そのような醸造方法は、ビールだけではありません。日本酒、ウィスキー、焼酎やワインに至るまで何かを混ぜて造っても、現在の日本の法律上は問われないのです。(この件の、より詳細なことは、聞いた言葉シリーズ第23回目「ほんものの酒を!をご覧願います)

 話しはアルザスワインに戻りますが、ここで購入した例えば右写真のゲヴルツトラミネール(Gewurztraminer)の場合、ラベルに容量やアルコール度数だけでなく、生産年、品種、収穫地、ワイナリー名などこと細かく表示されています。これを見た時、私は、まるでそこのワイナリーの品質や誇りさえ感じました。どこかの国でおこなわれている派手なコマーシャルだけが肝心な売り方とは、全然違うのです。

私の関係ホームページ
ストラスブール旅行記(トップ)
アルザス・ワイン街道巡り、太陽を感じるワインとは
今アルザスが面白い3、アルザスワイン
聞いた言葉・第23回目「ほんものの酒を!」

 結局のところ、 この「何の秘訣もない」という言葉は、「何もしない」のではなく、「なにか科学的な、あるいは何か特別なことを施さなくて、自然のままの栽培、本来の醸造方法のみで、いい品質に仕上げる」と、ほぼ同意語だったのです。それは、日々のブドウ栽培やワイン醸造に携わる人の、それらに対する努力、情熱、愛情がなければ出来ないことを意味しています。

(記:2008年8月2日)

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