屏風と商売は広げすぎると倒れる
商売の心得で様々な言葉が大昔からあります、この言葉も、その一つだろうと思います。私が解説をするまでもなく分かりやすい言葉ですが、どちらとも広げ過ぎると倒れやすい(商売や会社なら倒産・破産しやすい)という戒め言葉と思われます。あと、意味は違うのですが、屏風を用いた言葉に「屏風と商人は直にては立たぬ」と言うのもあります。これについては、国語辞典の大辞林に「先に屏風をまっすぐに置いては立たないように、商人は正直だけでは商売がやっていかれない」と解説してあります。
このように言葉上の例えにもなっている「屏風(びょうぶ)」は、現代では一般家庭でなかなか見られることはなくなりましたが、私の学生時代の美術時間で江戸時代に狩野派が屏風に描いた絵などは国宝にもなっていたかなあなどとの記憶があります。あと映画やテレビの時代劇では、この屏風は室内の調度品として極普通に登場しています。
改めて、この屏風という言葉を国語辞典の大辞泉で引くと「《風を屏(ふせ)ぐ意》室内に立てて風をさえぎったり、仕切りや装飾に用いたりする調度。長方形の木の枠に紙・絹を張ったものを2枚・4枚・6枚などとつなぎ合わせ、折り畳めるようにしてある。多くは表面を絵や書で飾る。中世以後、左右二つを一双として、関連する図柄を描くようになった」と書いてあります。
全く屏風などとの生活に関係ない私ですが、今考えると生活用品でありながらも、なかなか風流な物だなあと思います。また、身近な生活上の調度品だからこそ、昔から屏風に例えて色々な格言などにも使用されてきたのが分かります。
話は冒頭の「屏風と商売は広げすぎると倒れる」に戻りますが、この言葉は何かの商売を始められた初代とか代々受け継いでこられた当主が、後の方々に商売の戒め、心得として述べてこられたのだろうと言うことは先に書いた通りです。つまり、自分では、どんなに商売順調、伸びが大きいと思われても段々と、そのような状況ばかりではなく、同時進行でひたひたと悪化条件も忍び寄っているのではないかと言う先人の言葉でしょう。
あと、今回の言葉と意味は違うのですが、会社の寿命のことで現代では「企業30年説」とか「会社の寿命30年説」などと言われている場合もあります。つまり、どんなに優良、順調な会社でも、ある周期みたいに栄枯盛衰を繰り返していると言うことでしょう。そのような状況下、社業を百年とか何十代も当主(社長や代表)が変わられても維持されているのは、ある面驚異的で、その中にあっては並大抵の苦労があったからこそと推測されます。
また別の側面から考えれば、このような商売上の心得は、違う分野でも意味が通じるような気がします。物事何でも成功したり順調にいった場合、ついつい「次も、そのまた次もうまくいく、なんとかる」と思いがちで「もしも失敗したら、うまくいかなかったら」のことは忘れやすい場合もあります。全く仕事や色々と場面は違っていても奥深い商売上の真髄からにじみ出た言葉は、様々な事柄に相通じるものがあるということでしょうか。