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聞いた言葉・第143回目、家の作りやうは、夏をむねとすべし(家は夏向きに建てるべきだ)

家の作りやうは、夏をむねとすべし(家は夏向きに建てるべきだ)

 この言葉は、学校で習った兼好法師(けんこうほうし)徒然草(つれづれぐさ)の一説からです。これから辞典などの引用が長くなりますが、ご了承願います。国語辞典の大辞泉には、兼好法師徒然草について、次の「」内のことが書いてあります。「兼好法師(1283 頃-1350 頃) 鎌倉末期から南北朝初期の歌人・随筆作者。本姓は卜部(うらべ)。 慈遍の弟(一説に兄)。和歌を二条為世に学び二条派の和歌四天王と称せられ、 「続千載集」以下の勅撰和歌集に一六首入集。その著「徒然草」は「枕草子」と並ぶ随筆文学の傑作。兼好法師」、

 「徒然草=鎌倉時代の随筆。2巻。吉田兼好著。元徳2〜元弘元年(1330〜1331)ごろ成立か。随想や見聞などを書きつづった全244段(一説では243段)からなる。無常観に基づく人生観・世相観・風雅思想などがみられ、枕草子とともに随筆文学の双璧(そうへき)とされる」この徒然草の第五十五段には、次の<>内が書いてあります。(太文字は上野が付けた)

 <家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり> これを現代文に直して口語訳しますと次の「」内と思われます。「家の建て方は夏向きに建てるべきだ。冬は、どこにでも(なんとか)住める。(夏の)暑い時の悪い住宅は耐えられないことである」

 あと、上記に書いてないですが、兼好法師が住んでいたのは京都であり、その気候(極簡単に言えば盆地気候=「夏は猛暑、冬は酷寒の気候」)も影響して先の言葉は書いてあると思われます。この徒然草の書かれた1330年頃は(2012年の)今から682年も前です。日本の住宅は、この年代よりも古くから、また、つい何十年か前のクーラー(冷房機)が一般化するまで、ある意味、この教えはそのまま家屋を建てる場合、基準の一つだったと思われます。

 例えば、夏涼しいように四方八方から家の中に風を取り入れる工夫、断熱効果抜群の分厚い茅吹き屋根や漆喰壁など、先人の知恵が沢山あります。また、近代になって電気と言う至極便利なものだけでなく、熱源などを得るために石油、ガス、石炭、薪(まき)や木炭など、適材適所にバランス良く使用してきた経過もあります。

 そのような生活を長年続けたのち、戦後も相当経ってから冷房機など電気製品の一般化、建築技術の進歩、防犯対策、家族・生活スタイルの変化などにより、日本の民家も大きく様変わりしたと思います。

 現在の住宅では真冬に暖房器具をガンガン使い、Tシャツ1枚でアイスクリームを食べたり、真夏にはクーラーを長時間使用して鍋物を食べるのも珍しくはないと思われます。これらが可能になったのは、ひとえに暖房器具や冷房機の進展によるものでしょう。ただし、その分、化石燃料の大幅消費あるいは一昔前までは考えられないような電気使用の増大も同時進行だったでしょう。

 個人的なことながら私の実家は農家で小学生頃まで茅吹き屋根でした。その後、改築により瓦屋根などへ変わりましたが、それ以外は大きく変わらず、ある意味、先に書いたような日本古来からある民家の作りだったとも言えます。ですから、懐かしさと言うだけでなく長所も短所も含めて昔の農家の家造りを実体験しています。当然、クーラーなどもありませんでしたが、猛暑時季でも、なんとか過ごせたものでした。

 また、就寝時は、蚊や虫対策のため蚊帳(かや)を各部屋に吊るし、涼風をとり入れながら寝たものでした。現在、(右上側写真通り)私はログハウス住まいですが、扇風機はあってもクーラーはありません。理由は、貧乏なためが購入できないのが最大の理由です。あと、丸太は断熱効果が高いのと、家の周囲が田んぼばかりですから市街地よりは温度が少し低いためなども反映しています。

 話しは変わりますが、先ほど書きました便利な電気製品(オール電化なども含めて)や大幅な電気使用のあり方や節電を国民が考えなければならなくなったのが、福島原発事故と、その後の対応策と思われます。この原発問題は、今回のテーマではないので多くは書きませんが、お金の力によって作り出された「安全神話」などによる国民をだまし続けた結果、現在解決策の見えない状態に追い込まれているのは誰の目にも明らかな通りです。

 お金とコマーシャルなどによって作られた「安全神話」と、「オール電化だ、便利だ、簡単だ」と言う流れの結果の電気使用量の増大は、その根本が同じように見るのは私だけでしょうか。自然の風を取り入れる方法ではなく、高機密の家で部屋ごとに換気扇を回し、夏なら冷房を常時使わないと住めない家は、はたして日本向きの住宅なのでしょうか。シックハウス症候群などは、高機密の家作りと関係ないのでしょうか。

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 むしろ、昔風の家の方が、少々暑く感じても自然とともに暑い時は汗をかいて体温を下げるとか、動物や人が本来持っている体温調整機能、自然順応性にも合致しているような気もします。電気だけでなく、石油、ガス、石炭、薪(まき)や木炭など、適材適所に使って、なおかつ古来から「家は夏向きに建てるべきだ」と言うことを実践してきた住宅は、先ほど述べた通り遠い過去の話しではないのです。つい何十年か前なら、ほとんどの民家がそうだったのです。

 私は、兼好法師徒然草で語られている家の作りやうは、夏をむねとすべし(家は夏向きに建てるべきだ)は、「680年以上も前の言葉だから無視しても良い」と思えません。逆に、今後のエネルギー問題、地球環境、日本の住宅問題を考えた場合、兼好法師の言葉は、今なお新鮮で現状問題の解決方法を示し、将来の日本の住宅にもずっと適用できる命題とも考えています。

(記:2012年5月28日)
  

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