全ての人間は2種類に分けられる。スウィングする者と、スウィングしない者だ。
本題に入る前にスイングについて、国語辞典の大辞泉には、「ジャズに特有の躍動的なリズム感。また、そのリズムに乗ること」と書いてあります。今回の言葉は、映画スウィングガールズ(2004年9月11日公開、日本映画、監督・脚本は矢口史靖 氏)で語られていますので、この映画の概要から先に書きます。
この映画DVDの入った箱の裏面に、次の<>内のあらすじがあります。< 舞台は東北の片田舎(注1)。夏休み返上で補習授業を受けている女子高生たちが、サボりのロ実としてビッグバンドを始める。当然のごとくやる気はゼロ。しかし、楽器からすこしずつ音がでてくるにつれてジャズの魅力にひきこまれ、ついには本気でバンド結成を決意!
とはいえ楽器はないし、お金もない。バイトをすれば大失敗。なんとか中古楽器を手に入れて、いざ練習! と思いきや、今度は練習場所も追い出され、ついにはバンド解散の危機!? 波乱だらけの展開から感動のラストまで一直線!! 観る人すべてを幸せにする、青春音楽エンタテインメント! > (注1):主に山形県置賜地方が舞台で、方言も置賜弁(おきたまべん)が使われた。
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DVD盤の映画スウィングガールズ |
この映画を直接見ていなくても大ヒットした関係からか、何度かテレビでも放送され、ご存知の方も多いと思います。そのため、上記<>内以上には、映画全体のことについて触れないことにします。今回の言葉は、映画後半で演奏会があり、バンド名スウィングガールズは、次の3曲を演奏していたと思います。
・ムーンライト・セレナーデ(Moonlight Serenade)=演奏会での第1曲目
・メキシカン・フライヤー(Mexican Flyer)=第2曲目
・シング・シング・シング(Sing, Sing, Sing)=第3曲目で会場は最高潮に
いずれも曲名までは知らなくても音が流れれば誰でも知っているような、ビッグバンドの演奏会があれば”定番中の定番”の曲ばかりです。その中でも、シング・シング・シングは盛り上がる曲です。映画では、この曲の途中、会場内の聴衆で赤いジャンパーを着た男性が、「全ての人間は2種類に分けられる。スウィングする者と、スウィングしない者だ」と言いながら立ち上がり、手拍子を送り続けるシーンがあります。その後、会場内は総立ちの状況で、体でリズムをとり、万雷の拍手と声援の内に演奏は終了を迎えます。
私の感想ながら、「全ての人間は2種類に分けられる」の部分は、一見オーバーな表現とも思われます。ただ、私なりの解釈をすれば後の言葉「スウィングする者と、スウィングしない者だ」を、より強調するための形容詞みたいなものかなあと思いました。さらに私の感覚から述べると、この言葉を聞くと徳島の阿波踊りの歌詞「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々」を思い出します。
つまり、阿波踊りにしてもジャズにしても、「どうせ一緒の会場にいるなら楽しんだ方が断然いい」という感覚ではないでしょうか。だから、この映画の主役である女子高生たちの色々な失敗や問題があっても、「ジャズは楽しいんだ」、「ジャズを自ら演奏し親しむのは嬉しくて喜びも大きい」との思いが、全体ずっと貫かれているような気がします。
また、このロケ地(舞台)になったのが山形県置賜地方で、スウィングガールズの女子高校生だけでなく、それを取り巻く地元の方々あるいは随所に登場する農村風景までも、実に優しく人情味あふれる映画にもなっています。また、方言の置賜弁(おきたまべん)が耳に良く、特に女性の場合は、高校生だけでなく年配の方含めて可愛く見えるのは私だけでしょうか。(ご参考までに、方言の良さについては聞いた言葉・第32回目「お国訛りはその国の誇り」ページ参照)
このような素晴らしい背景部分があるからこそ、逆にジャズ演奏がキラキラと光り輝いているようにも見えてきます。あと、先の演奏会での3曲以外も、この映画では随所にジャズなどの名曲中の名曲がいくつか登場します。私の覚えている範囲内で、次の曲名とシーン(小文字部分)だったと思っています。
・素晴らしき世界 (What a Wonderful World)=マッタケとりの後でイノシシに追われる場面で流れるルイ・アームストロングの歌
・故郷の空 (スコットランド民謡)=交通信号機前、バス誘導、卓球などのシーン中バックに流れ、大型店前での演奏
・メイク・ハー・マイン(Make Her Mine)=大型店前での2曲目の演奏
・イン・ザ・ムード (In the Mood)=雪の上で応募ビデオをつくる時に演奏
・A列車で行こう(Take The A Train )=吹雪で閉じ込められた列車内での演奏
・ラブ(L.O.V.E.)=映画のエンド・クレジットで流れるナット・キング・コールの歌
今回このページに書いている全ての曲についてですが、ジャズ素人の私でも、今まで何十回あるいは何百回か聴いた曲ばかりです。そして、そのほとんどが、スタンダード・ナンバーでしょう。また、ジャズ演奏会だけでなく、テレビのドラマやCMでも流れる機会も多いです。私は、聞いた言葉シリーズ・第173回目、『何世代もわたって親しまれるのが本当の文学・芸術』にも書いていますが、これからも、このような曲は何世代にもわたって親しまれるのでしょう。
この映画が、なぜ大ヒットしたのか、私は当然その理由は分かっていません。ただ、全ての要素は分かっていなくても、女子高生のまばゆいばかりのはつらつさ、バンドを作り上げ、演奏前の練習のひたむきさなどは、同世代の方なら同時進行で、諸先輩方なら若き日の懐かしさや我が子を応援するような視線もあったのではないでしょうか。
それと同時に、日本の大都会ではなくしてしまった田舎の人情味や優しい風景なども引き立て役でしょうし、映画内で流れる有名なジャズ・ナンバーは一味も二味も効いた味付けでしょう。私個人としては、そのような全てが、この映画の魅力とも言えるのではないかと思っています。願わくば、また、音楽や田舎の良さをふんだんに、ずっと誰かに語りたいような映画などを見てみたいものです。
最後に、今回の言葉のように、どうしても「全ての人間は2種類に分けられる」とするならば、私の場合、演奏会場では迷わず「スウィングする者」に入りたいです。