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聞いた言葉・第205回目、敵を知り己を知れば百戦殆うからず

敵を知り己を知れば百戦殆うからず

  今回の言葉は、孫子(そんし。中国、戦国時代の兵法書)からです。この孫子については、下記<>内の国語辞典をご参照願います。そして、今回のテーマである「敵を知り己(おのれ)を知れば百戦殆う(あやう)からず」の元々の和訳は、「(かれ)を知り己(おのれ)を知れば百戦(ひゃくせん)殆う(あやう)からず」です。

 < 孫子=1,孫武または孫びん(そんぴん)の敬称。 2,中国、戦国時代の兵法書。1巻13編。呉の孫武の著といわれる。成立年代未詳。始計・作戦・軍形・兵勢などに分け兵法を論じる。「呉子」とともに孫呉と並称される。1972年に発見された竹簡により、現在の「孫子」は孫武の「孫子兵法」の一部であり、別に孫びんの「孫びん兵法」が存在したことが解明された。 >

 そして、その「(かれ)を知り己(おのれ)を知れば百戦(ひゃくせん)殆う(あやう)からず」の解説について、「ことわざ・名言辞典」(創元社編集部編、1978年4月10日)の193ページに次の<>内が書いてあります。 <敵情を知り、また味方の実力を知って、比較の上で策略すれば戦うに危険はない> なお、ご参考までに、上記の言葉と同じくらい有名な「呉越同舟(ごえつどうしゅう)<仲の悪い者どうしが同じ場所・境遇にあること。(大辞泉より)>も、この孫子に書いてあります。

 この孫子の兵法は、それこそ大昔から武人(軍人)ならば、戦のバイブルのように参考にされてきたことでしょう。また、先の大戦時に大敗北したミッドウェイ海戦、ガダルカナルの戦い、インパール作戦を特集したテレビ、新聞、雑誌などでも今回の言葉は、多く用いられ語られているようです。

 それらの内容や表現の違いは当然ありますが、その戦い自体の戦略上の問題、日本から何千キロも離れている所への補給問題、失敗した作戦の繰り返しなどを話す場合、この孫子の兵法に照らして、「どうだったのか」とか、「何が間違っていたのか」などと、よく話されています。

 あと、戦争だけでなく現代では、ビジネスのことでも、この言葉は頻繁(ひんぱん)に出てきます。例えば、国内外で有名な会社の経営危機や不祥事対応の遅れなどです。詳細な例は挙げられませんが、他社が新商品を開発したにも関わらず過去の成功体験例(ヒット商品)のまま生産を続けて打開策を見いだせずに経営危機を招いたなどです。

 さらに言えば、政治の世界でも同様でしょう。数々の失策により、国民から支持を失っていても、「まだ、いける」、「まだ、やれる」みたいなことを続けて選挙に突入すれば、与党ならば野党へ転落、野党ならば解党へ進むことにもなるかもしれません。このように、「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」の言葉は、現代、何も軍人だけで用いられていていません。

 つまり、国内外の各界各層において、共通している言葉ではないでしょうか。そして、この言葉の真髄(しんずい)でもある「情報入手力と、その分析力」が、古今東西、最優先事項でしょう。そのためには、人材の適材適所の配置が不可欠です。中には、経営者や何かの組織の代表者などに対して、直言居士のごとく「是は是、非は非」と言ってくれる人が周囲にいるか、いないかは大きな分かれ目と言えます。

 間違っても、周囲に「イエスマン」ばかり登用するやり方は、会社でも政党でも滅ぼす元とも言えます。本当に強いリーダーと呼べる人は、自分に異論や反対論を言ってきても、逆に説得できる位の度量がないと部下もついていかないとも思えます。周りに「イエスマン」ばかりを配置することは、居心地もいいし、何事も進めやすいかもしれません。

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 しかし、調子のいい時は、この方法が良いように見えても、下り坂や不調時には、同じ意見だけでは層が非常に薄く、解決策も時期も後手後手にまわっているのではないでしょうか。また、何かつまづきや不調傾向になった時に決まって持ち出されるのは、自らの間違いや不足を棚に上げて、その原因を他人や環境のせいにすることです。ここまで来たら、悪化はさらに決定的でしょう。

 つまり、孫子の兵法でいえば味方の実力も分からず、今後どうしたらいいのかの戦略も描けないまま、ただ同じようなことの繰り返しに終始して、取り返しのつかない結果になっていっているのではないでしょうか。

  国内外で有名な会社の経営危機、さらには一見強いように見えていた政党や、国内にあまたある様々な団体や組織の退潮・後退していくのは、結果として今回の言葉である「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」と、真逆のことを長年していたからではないでしょうか。

 私は、今回の言葉は、間違いなく中国の古い言葉ではあるのですが、現代社会でも沢山発生している各種の事柄に通じる、あるいはその立場に立つ人ならば指針ではないでしょうか。極端に言えば、まるで現在の情勢を正確に分析し、的確な戦略を立てた新しい言葉のようにも思えます。


(記:2017年7月31日)

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