長い物には巻かれよ、金には頭を下げろ
この言葉は、私が大阪で働いていた当時、ある先輩からよく聞きました。仕事のことなどで、上司とか他社との関係で何かの話があったのか、不平を言うように、「結局は、長い物には巻かれよ、金には頭を下げろと言うことで、黙っておけということさ」みたいなことを何回か聞いたことがありました。後で、先輩が言っていた意味などは詳細に書きますが、先に今回の言葉を前半部と後半部に分けて書きます。
最初に、前半部の長い物には巻かれよの解釈が、広辞苑には次の<>内通り書いてあります。広辞苑:「長い物には巻かれよ=目上や勢力のある人には争うより従っている方が得である」 また、後半部の「金には頭を下げろ」という意味は、先の先輩の言葉解釈は、大まかに言えば、「会社(経営者、上司)、金持ち、何かの事柄遂行時のスポンサーみたいな人達には、反対意見、不平不満などを言わず、従順に従え」とのことのようでした。
前半部は、確かに国語辞典や一般に使用されている解釈通りで、ある意味、仕事などでの処世術<世渡りの方法(広辞苑より)>でしょう。しかし後半部は、最初から、あまりいいいい意味で使われている言葉ではありません。ですから、先輩が言いたかったことは、(前半・後半一緒に使っておられたので)当然、悪い方の意味になってしまいます。
分かりやすく言いますと、大勢の動き、あるいは意見、さらには経営者やお金持っている人たちには、たとえ不平不満、もっと極端に言えば、その考えが間違っていても、「なにも反対意見や不満は言わずにいる(働く)」という意味だと思われます。
これは、仕事場や会社内だけではないと思われます。自分の住んでいる町内、地域、広く考えれば市町村、都道府県、国の政治に対する考えも同じかもしれません。「政治や国レベルの例は、あまりにも極端では?」と思われている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、会社など利害関係がないような地域のことでも、けっこう様々な繋がりなどはあるものです。ですから、地域でも「この仕事は準備していたのに、あなたたちの反対意見でダメになってしまった」みたいなこともあるようです。それが、親類縁者となれば、やや複雑なことにもなりかねません。
また、国単位みたいなことでも、戦前の分かりやすい例として、たとえ戦況が悪くなって来ていると分かっていても、あるいは、大本営発表(注1)が間違っていると思っても、それを口に出して言えば、当時の特高警察などにしょっぴかれた例もあったと本で読んだことがありました。
(注1):大本営発表=1 太平洋戦争中、大本営が国民に向けて発表した、戦況に関する情報。末期には、戦況が悪化しているのにもかかわらず、優勢であるかのような虚偽の発表をくり返した。 2 転じて、政府や有力者などが発表する、自分に都合がよいばかりで信用できない情報。(デジタル大辞泉より)
この長い物には巻かれよ、金には頭を下げろの言葉についての是非や賛否は、人によって、あるいは場面によって、それこそ十人十色の反応があると思われます。画一的に考えるべきではないかもしれません。しかし、例えば会社内では、原材料や商品について問題や欠陥などがあって誰でもがおかしいと気付いていても何も言えない、あるいは政治の世界では、不正があっても政治家に忠告しないこともあります。しかし、前者の場合は最悪では倒産、また後者の場合では辞任にも追い込まれたことが、いくつも今まで見聞きしたのではないでしょうか。
私は、聞いた言葉シリーズ第5回目『反対意見にも真理あり』、第回51回目『ノボセモンを大事にする』にも書いている通り、大勢が決まっている状況やお金や力のある人の前で、自分の意見に自信持って言うのは、大変勇気の要ることでもあります。
ただ、そのことが、その一時期「あんたの意見は間違っている」とか「他の人は支持しない」みたいに言われたとしても、そこに真実や道理があれば、後で、逆に「あんたが言う通りやったね」、「あの当時は、無視していたが、今こんな状態になって始めて、あんたの意見の正しさが分かったよ」みたいな事柄もあるのではないでしょうか。上司、勢力のある人や大勢の意見が、いつもいつも正しい、あるいは常に真実とは限らないからです。
繰り返しになりますが、今回の言葉=長い物には巻かれよ、金には頭を下げろの逆のことを発言する、あるいは行動をすることは大変な勇気と、極端な場合、自らの雇用や職を掛ける時もあるかもしれません。しかし、その場面で言う大切さに気付きながら何もいえず、後で、もしかしたら大きな後悔をすることも含めているのではと、同時進行で考えていく難しさも秘めているのではないでしょうか。