TOP INDEX BACK NEXT

聞いた言葉・第195回目、英雄とは人間が必要にかられてつくられるものだ

 

英雄とは人間が必要にかられてつくられるものだ

 今回の言葉は、映画『父親たちの星条旗(原題:Flags of Our Fathers、2006年公開のアメリカ映画、監督:クリント・イーストウッド)の日本語字幕からです。出演は、ライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチなどです。あらすじなどは下記<>内のヤフー映画紹介を、また次の国語辞典などもご参照願います。(右下側写真は映画『父親たちの星条旗』DVD写真から)

  第2次世界大戦の重大な転機となった硫黄島の戦いで、米軍兵士たちはその勝利のシンボルとして摺鉢山に星条旗を掲げる。しかし、この光景は長引く戦争に疲れたアメリカ国民の士気を高めるために利用され、旗を掲げる6人の兵士、ジョン・ブラッドリー(ライアン・フィリップ)らはたちまち英雄に祭り上げられる。 

・戦争=戦争とはある政治目的のために政治,経済,思想,軍事的な力を利用して行われる政治集団間の闘争である。それが組織的な破壊の企てであるかぎり,ひとの死を伴う。(後略) (世界大百科事典より)

・硫黄島(いおうとう)=東京都、小笠原諸島の南西、硫黄列島の中央の火山島。第二次大戦の激戦地。現在は自衛隊の基地が置かれている。中硫黄島。いおうじま。(大辞泉より)
(硫黄島全体や摺鉢山についてのグーグルマップは、ここからご覧下さい。 摺鉢山の地図は、ここからご覧下さい)

・摺鉢山(すりばちやま)=硫黄島の南西端にある169mの火山性の山である。19445年の日米の大激戦地の一つでアメリカ軍が、この山を制圧した時に頂上に星条旗が立てられた。その時の写真が、新聞や後で切手などにも使用され大変有名になった。また、ワシントン・アーリントン墓地にあるアメリカ海兵隊記念碑(Marine Corps War Memorial , USMC War Memorial )は、この時の模様をかたどったものである。「硫黄島の星条旗写真」はピューリッツァー賞も受賞している。


・ピューリッツァー賞
=米国の文学賞・新聞賞。新聞人ジョーセフ=ピュリッツァー(Joseph Pulitzer)の遺産により1917年に制定され、毎年、ジャーナリズム・文学・音楽の分野ですぐれた仕事をした人に贈られる。(大辞泉より)

 このページは、映画紹介ではないので、映画内容の詳細は書きません。ただ、映画の主題でもある硫黄島の星条旗写真などについては概略でも書かないと分かりにくいので、その点は触れていきたいと思います。

 この摺鉢山に星条旗を立てた6人の兵士達は上官の命令を忠実に実行しただけで、誰も後で英雄に祭り上げられて、アメリカ中で大騒ぎになるなど思わなかったようです。しかも、撮影初回は良い写真が撮れず、有名な右側写真(DVDのジャケット)と同じものは、2回目の撮影時と言われています。さらに言えば、硫黄島全体で戦闘は続いており、マダマダ、全島の完全制圧には程遠い状態だったというのが史実みたいです。

 それが、なぜ後でアメリカ国内で英雄とか、熱狂的になったのでしょうか。それは、この写真が新聞で報道された後、当時のフランクリン・ルーズベルト大統領が戦費調達(戦時国債)のキャンペーンに用いたからです。長引く戦争で戦費がひっ迫しはじめ、その不足分を補うため、星条旗を立てた兵士で生き残って者を全国キャンペーンに駆り立て、全米各地で「英雄の登場!」みたいにして訴え、国民を熱狂させ戦時国債を買わせたのでした。(結果、国債は目標の2倍以上も集まったとも言う)

 しかし、自分達は英雄とも何とも思っていない兵士たちは、行く先々で戦闘勝利の立役者やヒーロー(英雄)扱いになるので、逆に違和感や悩みが深くなったと言います。そして、大戦後に精神の病に見舞われた人も出たり、「あなたはヒーローだ」と呼ばれることをヒドク嫌ったとか、あるいは家族にも当時のことをほとんど語ることはなかったと言います。

 映画では、そのような父親の奥深い悩みを知った息子が、後半部で父親のことを回想するように語るシーンがあります。その日本語字幕で、概要は次の「 」内の通りです。

 「おそらく父の言う通りだ。ヒーローはいなかった。皆 父と同じような普通の人間だ。なぜヒーローと呼ばれるのが嫌だったのか分かる。英雄とは人間が必要にかられてつくられるものだ。(Heroes are something we create, something we need.)そうでもしないと命を犠牲にする行為は理解しがたいからだ。だが父と戦友たちが危険を侵し、傷を負ったのは仲間のためだ。国のための戦いでも死ぬのは友のためだ。共に戦った男のためだ」

 映画の日本語字幕は、文字数制限などがあります。そのため、個人的には声優さんが日本語で語られる言葉の方が、このことの意味が、より分かりやすいかなあと思いました。そして、一連の字幕の中では、先の言葉ともに「国のための戦いでもあったが、死ぬのは戦友のためだ」も強調されているように思えました。

  私は、学生時代から、この「硫黄島の星条旗写真」は、ピューリッツァー賞(先の国語辞典参照)も受賞していたので有名でもあり、概要だけは知ってはいました。しかし、この写真がアメリカの戦費調達へ使われたことや、あるいは旗を立てた兵士たちの苦悩まで知りませんでした。一見、勝った側だから、この種の問題がないだろうと思っていたのは、私の浅はかな考えだったなあと改めて思いました。

私の関係ホームページ
 勝利は100人の父を持つが、敗北は孤児だ
 人類は互いに助け合うべきだ
 いつの日か人として向き合える
 真実を自分で探す時代
 人類3大課題 環境、エネルギー、食糧
 演説の希望と失
 空気で作られた「真実」と「正義」
 全ての人をいつまでもだまし続けることは出来ない
 首相辞任のキーワード=国民との矛盾
 策士策に溺れる
 守るべきは報道の自由、この国の未来
 逃げ道を作ってあげる
 常に自制心と謙虚さを持って
 反対意見にも真理あり

 あと、今回の言葉「英雄とは人間が必要にかられてつくられるものだ」は、どこの国でもあるようです。通常作戦で起きた戦死でも、軍やマスコミなどが意図すれば、それは美談仕立てや、稀(まれ)にみる決死的・英雄的戦闘になると言うことです。そして、それは必ず戦争推進の意図を持って使われるということです。

  仮に戦死後に残された兵士の遺族とか、元気で帰還された軍人が国威発揚や英雄扱いを同意されたならば話は別です。しかし、映画『父親たちの星条旗』に登場している軍人などは、自らは全く英雄とは思わず、まったく別の兵士が真の英雄だと思っている人達には、それは別の意味で言うにいえないくらい苦悩が深かったと思われます。映画では、精神まで病んで死亡した人も含めて、そのことが鮮明に描かれてもいました。

  つまり、政府や軍によって作り上げられ、そのようにさせられた「英雄」は、戦争当時だけでなく、戦争終結後の人生でも第二、第三の犠牲になることもありうることを教えています。


(記:2015年7月20日)

TOP INDEX BACK NEXT